風邪はつらいよ(キネッサ乱入の場合)



 玄関のチャイムが鳴った。
 笛吹の部屋に来る人物といえば、シェダルかルークくらいしか思い当たらない。
 どちらにせよ部屋の主が顔を出さなくても、自分が出て事足りるので、ブレイズは玄関に走ってドアを開けた。
 
 「あれ、キネッサさん!?」
  はたして、群青色の髪の美人船長が玄関の外に立っていた。
 いつものパイロットの制服ではなく、白いブラウスに薄い水色のカーディガンを羽織り、カーキ色のパンツを履いている。
「スタンフィールド隊員もお見舞いですか?」
 「お見舞いというか、僕は看病しにきたんだよ」
 「私はトリスタン部長の代理人として参りました。大親友☆の突然の病の報せに、部長は嘆き悲しんでおられましたが、なにぶん現在イオまで出張に出かけてられてるので、すぐに駆けつけることができないものですから」
 「部長が来るより、キネッサさんが来てくれたほうが、笛吹隊長は喜ぶと思うよ!」
 「ふふっ、お世辞がお上手ね」
 「えっ、ほ、本当のことだよー!」
 アンドロイドだとはわかっているが、綺麗な大人のお姐さんの微笑みに少年は顔を赤くすると、ぷいっと横を向いた。
 「ほら、こんなとこで立ち話もなんだし入って入って!」
 「了解しました、失礼します」
 礼儀正しく挨拶しながら、キネッサは玄関をくぐった。
 「笛吹隊長の病状はどんな具合なのですか?」
 「熱がすごく高いよ。長く続いたらヤバイと思う」
 「医務室には行かれたのですか?」
 「ううん、行ってないみたい」
 「あら、早く連れて行かなくては」
 「それがね、笛吹さん、ここの医療班嫌いなんだ。寮に入ったその日に、研究チームに実験とか言ってモーラと戦わされたとかで。そうとは言ってなかったけど、多分それが理由だと思うよ」
 キネッサは首をかしげた。
 「医療班と、研究班とは、それぞれ別々の人間が担当しているのでは」
 「それでも同じに見えるんだ。メディフの人間で、両方ともメスを持ってるから。熱で弱ってるときに変な薬飲まされて、気が付いたら手術台にくくりつけられてて、さぁ実験だーっ!なんて言われないとも限らないでしょ?」
 「メディフの人間はそのようなことはしません。まして部長の大親友☆にそのようなことをしたら首が飛びます」
 「でも現に笛吹さんはそんなことをされそうになったわけだし。……リー、キネッサさんが来たよー!」
 理解できない様子のキネッサの手をぐいぐい引き、ブレイズは笛吹の寝室に足を踏み入れた。
 「わーい!キネッサさんなのー!こんにちわなのー!」
 「ちょっと散らかってるけど気にしないでね。花は僕が花瓶に挿すよ……ってキネッサさん?」
 「……」
 リーの挨拶に答えず、黙ったまま急に立ち止まったキネッサを不審に思い、ブレイズは振り返った。
 船長の視線は、笛吹に注がれている。
 「こ、こ、こ、これは一体……」
 「あ、あぁ、ええとね、地球の民間療法で」

 笛吹の現在の姿の異様さに改めて気づき、ブレイズは苦笑交じりに説明しようとした。
 しかしバグり始めた機械の耳には届かない。
 キネッサの思考回路は、首にネギを巻き、額に4つの梅干を貼り、色とりどりの花に囲まれながらうっとりしている笛吹で埋め尽くされた。

 「あーーーーっははは!!なに!なんなのこれは!あの隊長が!あの笛吹隊長がっなんですかこれはーー!ばーーーはっはっは!はひーー!!」

 ついに笑いが暴走したキネッサ。
 「ネギって!うっ梅干って!!はーっはーっはーーーーーはは!!似合わなっ!!でもっ花はっ似合ってるわーー!こんなに花が似合う人っ、いっいないに違いないわーー!!しかもうれしそう!!」
 「いや、これはね、僕のイリュージョンを見ているからなんだよ」
 凄まじい笑いに少しひきながら、ブレイズはなんとか暴走をおさめるべく、意識を自分に向けようとした。
 が、ちょうどこのとき、笛吹が幻の花畑の中でうっとり呟いた。

 「棘の無いエウロパピクシーサボテン……不思議だ!何なんだこれは……!」

 「不思議なのはあなたよーーーーー!!おーーーーほほほほほ!!」


 結局、ブレイズが、笛吹の頭から布団をかけてその姿を隠すまで、キネッサの笑いは収まらなかった。
 笛吹もだが、治療(修理)が本当に必要なのはキネッサだ、とブレイズは思った。




---おしまい---





出現率の低い女性登場エンディング。
最終的には「ブレイズとリーの場合2」につながるので、エンディングというよりは、 エピソードの追加と言ったほうがええかも。