「ちょっとコンビニにでも行ってくる」

 笛吹は持っていたゲームコントローラーをあぐらをかいた膝の上に置くと、 腕を大きく上げて背中のストレッチをした。
 目の前のテレビには、「CONTINUE?」の文字と共に、ポリゴンの数字がマイナ スカウントをしながらコミカルな動きで飛び回っている。

 「負けがこみ始めたからな・・・気分転換に外の空気吸ってくる」
 「落ち込まないで、笛吹さん!」
 ヒョウ柄のバミューダに黄緑色のトレーナーをあわせたブレイズが、笛吹に ならってコントローラーを床に置いた。
 「この格ゲー変なんだ!コンピューターのくせにハメ技使ってくるんだ もん!だからどんなにズタボロのこてんぱんのメチャクチャに負けても気にしちゃダメだよ!」
 「そうよ!このゲームひどいわ!笛吹さんが可哀想で見てられなかったわ!」
 「ハハハ・・・うん・・・落ち込まないよ」
 ブレイズはともかく、悪気の一切感じられないリーの言葉に心をえぐ られたが、笛吹は大人の笑みを浮かべて対応しながら立ち上がった。
 「確かAZ通りの角にあったよな」
 「あ、笛吹さん、僕もいく!今日は週刊ウェンズディの発売日だよね!」
 「私も行くわ!散歩大好き!」
 「シェダル、お前は?」
 笛吹の声、というより心での呼びかけに、ベッドの上に寝転びなが らポンコツを駆使して料理雑誌を眺めていたシェダルが顔を上げた。
 「笛吹、これ食堂のおばちゃんに頼んで作ってもらえよ」
 そう言って指差すページには、あんかけチャーハンの写真が載っていた。
 笛吹が近寄り、雑誌を持ち上げて表紙を見ると『セントクリス トファー・トバ子の今日の晩御飯』と書いてあった。
 「これってテレビによく出てくる、あの怪しい女王様ルックで料理する先生の?」
 「あの先生はともかく、料理自体は美味しそうだろ?食堂のおば ちゃんたちみんなお前のファンだから、お前の頼みなら何でもいうこと聞いてくれるぜ」
 「う・・・そうなのか?」
 そういえばおばちゃんたちは「息子か孫に欲しいわ〜」と言いながら、い つも笛吹の皿にオカズを大盛りにしてくれていた。
 「マダムキラー・笛吹!あっはっは!すごいや笛吹さん!」
 「あら、小動物キラーでもあるのよ♪」
 「・・・あのな・・・・・・まぁいい。シェダル、これくらいなら俺作れるぞ」
 「おっ、それならお前に頼むか」
 シェダルから渡された雑誌を片手に、笛吹は足元に散乱 しているゲームソフトやコードを踏まないようかき分けながら玄関に向かった。
 「そういえば白髪の姿見ないね」
 後ろに続くブレイズがふと思い出す。
 「またどっかに何かを探しに行ってるんじゃないか?じゃ、行ってくるわ」
 「ああ、行ってらっしゃーい!」
 こうして笛吹はブレイズの部屋を後にしたのだった。



コトリ泥棒



 火星最大のオフィス街、Ma25。
 時計は14時を廻り、休憩時間はとうに過ぎているものの、通りにはそれなりの人影があった。
 「しまった・・・・・・サングラス忘れた・・・」
 通り中の人の視線を一身に集めながら、ふと視界が明るいことに気付き、 笛吹は恐怖に表情をひきつらせた。
 黒のブラウスに黒のストレートパンツをすらりと着こなした黒髪の超・美 青年の姿は、隣を歩くひきつけを起こしそうなほど趣味の悪い少年とともに、 スーツ姿の人々の中にあって非常に目立っていた。
 しかも少年の肩にはなにやら人語を話す白い小動物まで乗っている。
 「笛吹さんファイトなのね!コンビニはもう目の前よ!」
 「あ、ありがとうな・・・頑張るよ」
 リーのさえずりに似た声がさらに視線を集めたのを感じながらも、笛吹はぐっ とこらえてちょっと笑みを浮かべた。
 途端、道のあちこちで「キャー!」だの「ステキ〜☆」だの黄色い悲鳴が飛び交い 、数10人の女性と数人の男性が失神した。
 「チョ、ちょっと待て、俺は今何か悪いことしたか!?」
 「大丈夫!笛吹さんは悪くないよ!でもひとまず危険だからコンビニまで走ろう!」
 「でもあの人たち助けないと・・・」
 「笛吹さんがそんなことしたら、よけいややこしくなるって!」
 そう言いながらブレイズは、うろたえる笛吹の袖を引っ張って急ぎ足で歩き始めた。

 ゆっくり散歩気分を味わうまもなく、3人は火星で1番多いコンビニエンススト ア『ファミリーマーケット』に到着した。
 「笛吹さん、サングラスかけてないこと忘れてむやみに表情出しちゃダメだよ !でもコンビニの店員には優しく微笑みかけてもいいからね。きっと無料にしてくれるよ!」
 「あのなぁ・・・」
 苦笑いを浮かべた笛吹とすれ違った中年サラリーマンが「サイコ〜・・・」と呟き ながら失神したが、それには構わずコンビニの中にはいる3人。

 「いらっしゃいませ」
 「ひとまず僕は雑誌買ってくるね!リーは・・・・・・あ〜〜〜〜っ!?」
 「どしたのブレイズ・・・エェ〜〜〜!?」
 「な、なんだルーク!?お前何してんだそんなところで!?」
 レジカウンターの中には、バイトの女の子達に囲まれながらむっつり無愛想に立 っている銀髪の青年の姿があった。
 「バイトだ」
 「バイトォ!?」
 確かにルークはファミリーマーケットの制服を着込んでいる。
 「お前一応高級取りな職についているだろ?何でまた・・・」
 「先日壊した多目的室の壁代でほとんど差し引かれてしまった」
 「ああ、ブレーカープレートね。高いらしいからな、あれ」

 このとき、ルークを取り囲んでいた3人の女の子のうち一人が、ルークの腕をちょ いちょいとつついた。
 「カースレインくん、あのきれいな人は友達?」
 「ああ、忍か。戦友だ」
 親指をビシッとたてるルークに黄色い悲鳴が上がった。
 「キャ〜〜!ステキ〜〜!!超美形っていうか〜〜〜〜!!!」
 「ねえねえ、紹介して〜☆」
 「絶対『受け』って感じよねー!!」
 「キャ〜〜!言えてる言えてる!ネタだわ〜〜!」
 よく意味のつかめない言葉が混じる会話と、女の子達の勢いについていけなくな り、笛吹は適当に相槌を打ちながら、ブレイズとリーを連れてその場を離れた。
 「しかしいつの間に・・・採用する方の気持ちが知れないな」
 「迫力で圧倒したんじゃない?」
 「ルークさん、モテモテ〜☆」
 「俺の周りには食堂のおばちゃんしかいないというのに、あいつは女の子達に囲ま れながらバイトしてたのか・・・」
 悔しがる笛吹。
 哀愁漂う背中をポンとやさしく叩くと、ブレイズとリーは雑誌売り場の方へ向かった。


  店の中には笛吹たち以外、客の姿は見えなかったので、視線を気にすることなく商品を選ぶ ことに没頭できた。

 シェダルに借りた雑誌のレシピを見ると、食材は全部ファミリーマーケット の食材コーナーでまかなえることがわかった。
 早速買い物かごを下げて、たまねぎやチャーシュー、ピーマン、タケノコ 、椎茸、なすびを次々放り込む。
隠し味の決め手、トマトを手に取り鮮度を 確かめていると、ふわりと何かが肩の上に乗った。
 「リー?何か欲しいものでもあるのか?」
 肩の上も見ずに話し掛ける笛吹。
 その耳たぶを何か小さなものが噛んだ。
 「いたっ!?」
 驚いて手から落としそうになったトマトを、お手玉のようにしながらなんと か救出すると、笛吹は肩の上に乗っかっているものを見た。
 果たしてそこにいたのは・・・・・・。

 「ピピーーーッ!」

 「は・・・・・・小鳥・・・?」
 小さな黄色の小鳥が一匹、肩の上で小首をかしげていた。
 「何でこんなところに小鳥が・・・」
 誰かのペットかもしれないと、笛吹は周りを見回したが、飼い主らしき人は見当たらない。
 「飼い主とはぐれたのかな」
 「ピピッ!チュピーー!」
 「でも見当たらないし・・・・・・」
 「チュピッ?」
 「まさか野良か?」
 「チュピピピピ!!」
 「あっ、こら、フンするな!」
 黒いブラウスの肩の上に落とされた白いしみはかなり目立つ。
 実は卸したてだった服をいきなり汚されて、悲嘆に暮れた笛吹は小鳥をそのあ たりの棚の上に乗せようと考え、手を伸ばして掴もうとした。
がしかし、「クルックルッ」と小首をかしげ、つぶらな瞳でじっと見つめてくる 姿を見ていると、何故だか突然、胸いっぱいに愛しさがこみ上げてきた。
 「・・・っく!」
 愛しい思いを振り切るように小鳥を掴むと、笛吹はカップラーメンの並ぶ棚 の上にとまらせた。
 しかし小鳥はすぐに羽ばたくと、笛吹の肩の上に舞い戻り、また同じ動作を繰り返した。
 笛吹の頬にほんのり赤味が差す。
 「か・・・・・・可愛い!!好きだ!!」
 笛吹は陥落した。


 ルークがレジカウンターで仕事もせずに、相変わらず女の子達に囲まれなが らぼーーっと立っていると、どこかぼんやりした風情の笛吹がふらふらとやって きて、買い物かごを置いた。
 笛吹のレジの会計をしようと、バイトの女の子3人が凄まじいレジ争奪戦を繰 り広げ始めたが、そんな大騒ぎもどこ吹く風、肩の上に乗っている小鳥を愛し そうに見つめている。
 「忍、その小鳥はなんだ?」
 「今日から俺のペットになるんだ。それよりお前でいいからレジしてくれよ」
 「私はレジを習っていない」
 腕を組みながら、えらそうな態度で応えるルークに、笛吹は思わず呆れたような視線を向けた。
 「・・・は・・・?お前バイトだろ?」
 「警備専門のバイトだ」
 「警備?コンビニに?」
 「そうなんです、カースレインくんは警備担当なんです!」
 レジ争奪戦に敗れた茶髪のお団子頭の女の子が、会話に飛びついた。
 「最近コンビニを狙った強盗が多いので警備担当を臨時で募集していたんです けど、あまり役に立ちそうにない人ばかり来ちゃって・・・」
 その後を引き継ぐように、やはりレジ争奪戦に負けたオレンジ色の髪をショ ートカットにした女の子が、カウンターから身を乗り出す。
 「そんなときにカースレイン君がぼーっと店に入ってきたの、ほら、彼、体格 いいじゃない?訊けばカストル系ハーフで、しかもエイリアンバスターだって言 うからさ、超好都合って感じでスカウトしたの!だって相手はエイリアンだもん ね!いくら腕に自信があるからって地球人じゃ太刀打ちできないじゃん!私、エ ラルダ、ヨロシク!」
 「あ・・・あの・・・」
 「キャーッ、ずるーい!私はサトミ!あなたと同じ、そら、なんていうんだったっ け、あれよ、ジャポン系よ!運命を感じない?」
 「あのさ・・・エイリアンって・・・」
 「ちょっとレジの邪魔よ!・・・はい、こちらレシートになります」
 「ああ、どうも」
 赤毛の女の子から受け取った紙には「スフィン 090-XXXX-XXXX 電話ちょう だいね☆」と書かれていた。
 「あ・・・あのこれ、レシートじゃ・・・」
 「あーー!スフィン抜け駆けーー!!」
 エラルダが笛吹が差し出した紙を覗き込むと、すぐさま取り上げた。

 またも騒ぎ始めた女の子達との会話をあきらめた笛吹は、再びルークに視線を向けた。
 「事情はわかった。どんなエイリアン相手か知らないけど、本職に差し障 りない程度にしときなよ」
 「大丈夫だ」
 ルークは泰然と頷いた。
 「相手はとるに足らない小獣型エイリアンと、61α人の男の二人組みだという」
 「・・・・・・ブレイズとリーじゃないだろうな・・・」
 「いや、ゴーレムメーカーではない。コトリと呼ばれるエイリアンだそうだ」
 「・・・・・・コトリ・・・・・・?」
 肩の上で一生懸命小首を傾げる動作をする小さな小鳥を、ぼんやりした目で 笛吹が見たその時、店のドアガラスが突然くだけ、店内に降り注いだ。

 「キャーー!」
 「くそっ!」
 とっさに念動力を使ってガラスの破片を笛吹が弾き返す。
 「誰だ!?出て来い!!」

 「ふっふっふ・・・今回は念動力を使えるやつが店の中にいたか・・・・・・」

 怪しい含み笑いと共に、ガラスの割れた入り口を気をつけながらくぐる1つの人影。

 「しかし!私のAクラス念動力にかな・・・・・・うわっ!?」
 瞬間移動並みのスピードで男の背後に移動したルークが、あっというまに組み伏せた。
 「任務完了」
 「キャーー!カーくんかっこいい!!」
 もはや年下の女の子からカーくん呼ばわりのルークである。
 「なになに、強盗捕まえたの?」
 雑誌売り場からブレイズが読みかけの雑誌を持ちながら、リーをつれてのんびりやってきた。
 「ルークさんお手柄ね!すごいわ!」
 「あまり弱いものいじめしてたらダメだよ」
 「だっ、誰が弱いって!?本番はこれからだ!」
 赤味のかかった金髪を短く刈り上げた61α人は、組み伏せられながらも戦 意を絶やさず、種の特徴であるなかなか整った顔を笛吹の方に向けた。
 「そいつを使え!チュピピ!」
 「おう!任せとけや!!」
 ものすごく野太い声が、笛吹の肩の上から発せられた。
 笛吹の声ではない、もちろん笛吹が腹話術をしたのでもない。
 間違いなく小鳥のくちばしから発せられた声だった。
 「うーわっ!喋った!!」
 驚くブレイズの肩の上でリーが泣き叫ぶ。
 「あーーん!言葉喋ってるーー!!変なの〜――!!」
 いや、お前もだろう、とその場にいた誰もが思ったが口には出さなかった。
 「なんやねん、喋って悪いか、オウ!?」
 「あーーーん!しかも柄わるーーーい!!可愛くないわーー!!」
 「るせぇ!ガキは引っ込んでろ!!」
 ぺっと唾を吐くと、さっきまでのつぶらな瞳はどこへやら、ギリっとつりあがっ た三角の目が赤く光った。
 何か能力を使う前兆である。
 「笛吹さん!そいつなんとかして!」
 ブレイズは笛吹に呼びかけたが、何故か笛吹は柄の悪い小鳥を肩に止まらせたまま大 人しく立ち尽くし、どこか遠いところを見ているような目をしている。
 「笛吹さん!」
 「無駄や無駄や、この男に何言っても聞こえん、こいつは・・・」
 小鳥の説明をさえぎって、肺活量12000のルークが叫んだ。

 「忍―――!!」

 店の中のショーケース全てがびりびり震え、その場に居た者たちは鼓膜の痛 みに慌てて耳を押さえた。
 その声の大きさたるや、ルークに組み伏せられ耳をふさぐことができず、 なおかつ間近で声を浴びた61α人の男が耳から血を流して気を失ってしまったほどである。
 耳から血を流さなかったものの、バイトの女の子達もバタバタと気絶してしまった。

 「これなら聴こえただろう」
 ものすごく自慢気なルークだが、彼には賞賛の言葉ではなく、罵声が次々と浴びせられた。
 「おいコラ、話を最後まで聞かんか!耳潰れるか思たわ!」
 ドスの効いた声で怒鳴るチュピピ。
 笛吹は相変わらずぼーーっとしており、効果はなかったようである。
 「ええか、こいつは俺の魅惑の術にかかってるねん。俺の言うことなら何でも聞くねんぞ」
 「ゆ、誘惑の術!?・・・・・・そ、そんなのウソだ!」
 ブレイズのどんぐり眼が更に大きく開かれた。
 「ウソやない」
 「何でもいうこときくって・・・じゃぁポ○モンのマタド○スの声真似させ てよ!笛吹さん、普通なら絶対してくれないもん!!」
 「よっしゃ、わかった・・・おい!マ○ドガスの声真似してみろ!」
 チュピピの目が赤く光り、笛吹はこっくりと頷く。

 「マタ○ガ〜ス」

 笛吹の薔薇の唇から、非常に特徴のある声が囁くように紡ぎ出された。

 「ヒーーッ、ハハハ、ゴフッ、ゲフン!はーー、ハハッハハハ!!」
 「キャハハハハ!笛吹さん似てるーー!」
 「なかなか面白いぞ、忍」
 この場にキネッサがいたらお手本のような大爆笑をかましてくれたことだろう。
 「うーん、確かにいい線いっとったなぁ」
 チュピピまでが頷いた。
 「次!ピ○ョンの声!!」
 「○ジョーーーーーーーン!!」
 「ぶわはははっはははっはーーー!!」

 こうしてしばらくマニアックなネタが繰り広げられた。

 「さーて、遊びすぎたようやな。もうこの辺でええやろ。本題に入ろか」
 目つきの悪い小鳥の言葉に、再び現場に緊張が走った。
 「レジの中身、全部出してもらいたいねん、・・・おっと兄ちゃん、変な真似してみぃ」
 ルークをちらりと見て、けん制するようにチュピピは言った。
 「俺に攻撃しかけようとする者には、自動的にこいつが攻撃を仕掛けるからな」
 「笛吹さんが動くより先に、あなたに攻撃を仕掛けたら大丈夫なんじゃないの?」
 リーの疑問に小さなコトリは禍禍しい表情でせせら笑う。
 「俺の意識がなくなっても、しばらく術の効果は消えへん。こいつを攻撃できれ ば話は別やけどな・・・・・・あの銀髪、やれ」
 黒髪の美青年の瞳が紫色に妖しく輝いた。
 笛吹を気絶させることに一瞬躊躇を見せたルークの体が、ふわりと宙に浮か び・・・そして地面に叩きつけられた。
 「・・・っ!」
 そのまま重力は加圧され、ルークは地面に押さえつけられたまま動けなくなってしまった。

 「これはちょっとまずいよ・・・・・・」
 傍らで見ていたブレイズが小さく呟いた。
 笛吹がSSクラスに認定されている所以は、超重力場を派生させることが出来ることにある。
 しかも笛吹の話を聴く限り、自分の意志で創る以外に、身に危険が迫って とっさに創るケースが多い(といっても2例しかないが)ように感じられた。
 下手に笛吹に攻撃を仕掛けて、こんな街中でブラックホールを発生させたら、 それはもう大変なことになるのは目に見えている。
 しかも笛吹は現在、しっかりとした意識をもっていない。
 「こうなったら・・・・・・」
 ブレイズはどんぐり眼をキッと細めると、とある風景を頭に思い浮かべ、 それを笛吹とコトリにぶつけた。

 瞬間、一人と1匹の脳内に炸裂するイリュージョン。

 「な、なんやここは!?なんで花畑におるねん!?」
 ブレイズが思い描いたのは、つい先日、トリスタン氏からもらった割引券 を駆使して、スペシャル・スカッドのメンバーで遊びに行った植物園内にあったコスモス畑。

 「どこやねんここは!?」
 「コスモスだ・・・宇宙だ・・・!」
 「そんなこときいとらん!空間転移使われたか!?」
 ものすごく嬉しそうな笛吹にチュピピが突っ込みを入れている隙を 狙って、ブレイズはズボンのポケットから携帯を取り出すと、慣れた手つきでダ イヤルをプッシュし、1コールしてから切った。

 すぐさま携帯電話にではなく、脳に直接返事が来た。
 『どうした、ブレイズ?』
 『シェダルさん、助けてー!』
 笛吹が遠くにいるシェダルに呼びかけるとき、この方法をよく使ってい たのをブレイズは見ていたのだ。
 『笛吹さんが誘惑の術かけられて変になっちゃったんだ!』
 『そのようだな・・・・・・アハハ、この前行った所だな、上手く再現できてるじゃん』
 『えへへ、そうでしょ・・・じゃなくて!』
 『ハハ、わかってるって、呼びかけてみるよ』

 シェダルは意識を集中すると、花畑を幸せそうに歩いている笛吹目掛けて最 大の心の声をぶつけた。

『笛吹――――ッ!!!』

 「うわっ、シェダルごめん!!」
 ビクッと肩を揺らして笛吹が目に正気を取り戻した。
 「なに、なんだ、アレッ?コスモスは!?シェダルは!?」
 「あ、成功したみたい!やったね!」
 「良かったーー!笛吹サーーーン!!」
 ブレイズがぱちんと指を鳴らし、リーがさえずる傍らで、重圧を 取り除かれたルークがゆらりと立ち上がった。
 床には人型のひびが入っているが、ルーク自体は無傷である。
 「ところで私は牛肉が好きだが、鶏肉も大好きだ・・・・・・」
 ぎらりと光る鋭い視線は、笛吹の肩の上で、まだ花畑を彷徨っている 小鳥を射抜いていた・・・・・・。



 「みんな、夕食できたぞ」
 デニム地のおしゃれなエプロンを身につけた笛吹が、お盆をテーブルの上に置いた。
 皿の上ではお椀型に盛られたチャーハンが香ばしい薫りを放っている。
 その傍らの小さな白い陶器のお椀に入っているのはトマト色のとろりとした野菜スープ。
 「これがメインディッシュ。この特製のあんをかけて食べるんだ」
 「これこれ!オレはこれを食べたかったんだよなぁ!」
 「とっても美味しそうだわーー!!」
 「笛吹さん、すごい!これは取り柄だよ!」
 「何故料理人にならなかった?」
 
 キッチンから餃子や麻婆豆腐などを次々と運ぶ笛吹の背中に向けて、リ ビングのテレビから7時のニュースの音楽が流れた。

 『今日午後2時ごろ、Ma25のコンビニエンスストア『ファミリーマー ケット』に二人組の強盗が入り、店員に金を要求しましたが、偶然居合 わせたメディフ社のエイリアンバスターにより取り押さえられ、二人組の うち61α人は数分後駆けつけた警官隊に捕獲されました。もう一人のア ステロイドの小動物型エイリアン、コトリは警官隊が到着する前に逃走し た模様です。コトリはテンプテーション(魅惑術)を使うことで有名なエイリアンで 、最近この付近のコンビニでは、客や店員をテンプテーションで魅了し、人質あるいは 武器として用いる手口の事件が多発していました。この事件も他の事件と関連がある と見て、連邦警察は逃走したコトリの行方を追っていますが、今のところ見 つかっておらず、オフィス街の中心で起こった事件ということで、各会社、付 近住民に注意を呼びかけると共に、協力を・・・・・・』

 笛吹は最後の一品をルークの前に置いた。
「・・・・・・俺は知らないからな・・・」
「もちろん。私が料理したのだから、忍には関係ない」
 眉間のしわを寄せたまま、ルークは片眉を上げてにやりと笑った。
 「あら、私には鶏のから揚げはないの?」
 「うん?ああ、これはカストル人向けの味付けがしてあるから、リーに は向かないよ。また今度、リー向けのものを作ってあげるからね」
 「やったーー!楽しみなことが1つ増えたわ!!」
 喜ぶリーに天使のような微笑を投げかけながら、笛吹はシェダルの隣の席に腰を落ち着けた。

 「それではいただきます」
 「いただきます!!」


おしまい☆





あとがき

 2000ヒットを踏まれたのしちゃんからのリクエスト短編小説、お題は「 コトリ(知的生命体)とコンビニ強盗」でした。
 一応、「UNIVERSAL DREAM」より後の話です。
 ひとまずのしちゃんが一番好きだと言ってくれた笛吹が主人公。
 ・・・・・・つまりいつもと変わらん(笑)

 えーー、・・・・・・のしちゃん、スマン(笑)
 小鳥が好きなのにこんな結末になってしまって・・・いや、最初は こういうオチは考えてなかったのだけれど、話を進めるうちに、ノリ でさぁ・・・でさぁ・・・・・・スミマセンm(__)m
 (しかも声野太いし)
 ルークを嫌いにならないでネ(笑)

 途中、これまた思いつきでポケモンネタを入れましたが、わからんかった人はごめんなさいね。
 マタドガスは本当に独特の囁くような声なので書き表せませんが、ピジョンは甲高 い声で叫びます。


 あーー、本当にお目汚し、スミマセン(泣)
 

2001.9.28



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