こちらは栗戸が書いた「UNIVERSAL DREAM」の世界にやってきてしまった 花子ちゃんサイドの話です。

現在進行中の本編のちょっぴり暗いムード(そうか?)を払拭するべく 完全ギャグにしました。(そうか??)
シリアスのかけらもありません。
かなりキャラ中心ストーリーになっていますので、 「そんなの読んでられっか!」とか、「俺は本編の雰囲気を壊したくない!」 という硬派な方は、流し読みしてやってください(笑)(読んでほしいんかい!)

「私はキャラクターがどれだけ壊れていても愛しているわ〜!」という酔狂な方、 びしばしお読みになって☆
壊れているキャラクターは、ただ一人ですが・・・・・・。

それではどうぞ!






朝起きて早々、ブレイズの頭は真っ白になった。

自分の頬をつねってみた。
痛い。

目をこすってみた。
しかし何も変わらない。

ひょっとしたら無意識のうちにイリュージョンを使っていたのかもしれない。
なにせブレイズはエイリアンハーフの人生最大の山場、思春期真っ盛りの少年なのだから。

「で、でもぼくの理想はリーであって・・・」
「ん・・・う〜ん・・・・・・」
ぶつぶつと自問自答するブレイズの声に、一晩中シューティングゲームで遊んだ挙句、 そのまま力尽きて床に寝っ転がっていた、黒髪の超絶美青年が目を覚ました。
「・・・・・・おはよう・・・みんなそのまま眠っ・・・はぁっ!?」
目をこすりながら少年のいるベッドの方を振り返った笛吹は、おもわず素っ頓狂な声をあげる。
「何だその女の子は!?」
「あ・・・笛吹さんにも見える?」
「見えるっていうか、えっ、『見える?』って訊くということはこの子は幻!?」
混乱して慌てふためく笛吹。
その声に、隣でベッドにもたれかかり、腕を組んだまま眠っていたルークがギラッと目を開いた。
「どうした、忍」
「どうしたもこうしたも、何故か女の子がここにいるんだ!!」
「何っ!?」
笛吹の指差す方を勢いよく振り返ったルークは、眉根をキュッと引き締めた。
「なんだ、子供ではないか・・・・・・」
あからさまにがっかりした表情のルークに、ブレイズが顔を真っ赤にして叫んだ。
「大人だったら大問題だよ!バカ白髪!!」
「子供でも大問題ではないか?それと白髪ではない、銀髪だ!」
「ちょっと待て、シェダル、シェダーール!!起きてくれ!!」
エキサイトし始めた二人の間に入ると、笛吹は形のいい足を伸ばし、 部屋の隅で毛布に包まって眠っている金髪の青年をつついた。
「んー、おはよう・・・・・・」
水色の毛布がもぞもぞと動き、目を瞑ったままシェダルが顔を出した。
そのままぼんやりと近くに転がっていたポンコツに手を伸ばし、スイッチを入れようとして・・・・・・ くるりとブレイズの方を向いた。
「あれ、笛吹が連れてきたのか、それは。リーはどこに行った?」

「幻じゃない!?っていうかリーがいない!!!!!」

蒼白で叫んだブレイズの隣では、周囲の騒音をものともせずに、 小さな女の子がすやすやと寝息をたてている。




未来版とりかえばや物語




「オレンジジュースで良かった?」
「うん、ありがとう!」
笛吹はソファーに座る女の子の前に、オレンジジュースの入ったグラスを置いて、その隣に座った。
ブレイズの部屋は散らかりすぎて足の踏み場がなく、
部屋のドアにたどり着くために念動力を使ってモーセが海を割る如く、 床に散らばるものを移動させて道を作らなくてはならないレベルに達していたので 、女の子の精神衛生上良くないと笛吹が判断して自分の部屋に場所を変えたのだ。
「え〜と、オレの名前は笛吹。君の向かいに座っている男の子がブレイズ、 金髪の人がシェダル、そっちの大きいのがルークだ。君の名前は?」
「花子!」
肩より少し上で切り揃えられた黒髪を揺らしながら、 元気よく答えた将来有望な容姿の女の子は7歳くらいだろうか。
真っ白な着物に草履姿という変わったいでたちをしている。
「花子か、いい名前だね。どこからきたのかな?」
ナンパのセリフみたいだ、と心の中で自分でツッコミながら笛吹が優しく訊いた。
「んとねー、峻泰ってところなの」
「リョウタイ?火星っぽい地名じゃないな・・・どこの星にあるの?」
「星?星って空に浮かぶ星のこと?」
「そうそう、火星とか、ガニメデとかあるよね」
「??」
頭の上からハテナマークを発している少女の様子に、笛吹は首をかしげた。
「小さい子にはわからないかな・・・ブレイズ、リョウタイってどこかわかるか? 地球にありそうじゃない?」
「うん、アジア大陸にありそう・・・ってくらいしかわからないや」
眉根を寄せるブレイズの隣で、いつも眉根を寄せている銀髪の青年が「はい」と手を挙げた。
「お、ルーク、知ってるのか?」
「私もオレンジジュースが欲しい」
「・・・・・・」
笛吹は黙ってにっこり笑うと空間転移能力を発動し、ルークを彼の自室へと飛ばした。
目の前から突然姿を消した男に、花子は目を丸くした。
「あの怖いお兄ちゃんも瞬間移動使えるの!?」
「『も』ってことは、花子ちゃんは空間転移を使えるの!?」
ブレイズが驚いて、元から大きなどんぐり眼をさらに大きくした。
その向かいで笛吹がまじまじと少女の容姿を観察する。
「・・・エイリアンじゃないよな。一見地球人だけど、考えられる可能性としては 61αと地球の・・・」
「んー、違うな」
さっきから黙って花子を見ていたシェダルが、ここでやっと口を開いた。
「ハーフじゃないし、エイリアンでもない。そして地球人でもない」
「そんな生き物存在するの、シェダルさん?」
「んー、笛吹に言った方がいいのか判断がつかないな・・・・・・」
「なんだよそれ」
笛吹は形のいい薔薇色の唇を尖らせると、オレンジジュースを飲みながら事態を静観している 花子に向き直った。
「君は一体何者なのかな?」
「んとねー、幸福の約束なのー」
「・・・『幸福の約束』?鈴蘭の花言葉だな・・・」
顎をさすりながら笛吹が呟いた言葉に、花子が目を輝かせた。

「そうなの。あたし鈴蘭の精霊なの!」

「・・・・・・」
笛吹の時が止まった。

「シェ、シェダルさん、あんなこと言っているけど・・・」
うろたえるブレイズに、シェダルは大きく頷いた。
「マジだな。この子のオーラ、植物のそれと全く同じなんだ」
「精霊って精霊だよね!?現実にありえないよ!ファンタジーじゃん!」
「でもはるか昔には、地球人にとって、宇宙人の存在も現実の話じゃなかったんだぜ?」
「う〜ん、そうだよね、シェダルさんが言うんだから間違いないよね」
意外に素直に納得したブレイズ。
一方、向かいに座る笛吹の耳には、彼らの会話は入っていなかった。

「・・・鈴蘭の・・・精霊・・・?」
「うん」
間近に迫る美しい顔に臆することもなく、花子はにっこり笑った。
「君は植物なのか・・・?」
「うん」
「・・・植物には全部精霊がいるのか?」
「あたしのいたところではそうだったよー。田晶がいい人だったから、あたしは人の形に・・・あ!」
花子はなにかを思い出したかのようにぴょいっとソファーから立ち上がった。

「田晶は?田晶はどこにいるの!?」
「デンショウ?そんな人、ここにはいないよ」
「えっ!?」
ブレイズの言葉に花子が目をぱちくりさせたかと思うと、眉を八の字にする。
「どうしよう、田晶を幸せにするって約束したのに〜」
「あ、ブレイズが女の子泣かせたぞ〜、い〜っけないんだ〜、いけないんだ〜」
「泣いてないじゃない、シェダルさん!」
「わはははは!・・・は・・・」
少年をからかって遊ぶシェダルの顔が、珍しく凍りついた。
雰囲気を読み取ったブレイズが笛吹のほうに視線をやり・・・そして絶句する。
ドアを開けて「忍!ケチはいけない!」と叫んだルークは、そのまま固まった。

感性は人それぞれで、万人共通の美などこの世には存在しない、というのが一般の理論だ。
しかしこの世には常識を越える奇跡というものが存在する。
今まさにその奇跡が、火星の刑務所のような愛想のかけらもない社員寮の一室で具現化されたのだ。

笛吹は最上級の笑みを浮かべながら、哀しそうな顔の少女の頬にそっと手を差し伸べた。
「俺が、君の幸福を約束しよう・・・・・・」
甘いテノールがとどめとなり、ブレイズとルークが薙ぎ倒された。
シェダルはソファーに捕まって何とかこらえる。

彼の微笑みは一人として例外が生じることを許されないほど、『完璧さ』を超越したもので、 形としての魅力だけではなく、目に見えない何かフェロモンのような物質を 特殊能力として放ったとしか言いようがないものであった。

「これは・・・『奇跡体験アンビリーバ●ー』に送らなくては・・・・・・!!」
くらくらする頭をなだめながら、シェダルはヒートする視聴覚伝達器に組み込まれたカメラ機能を 使って、写真をとり始めた。
これはシェダル人の血をひく彼だからこそできた行動である。
普通の人間なら、笛吹の笑みをファインダー越しに直視しただけで目が潰れてしまうだろうから。

「んとねー、それじゃ〜田晶捜すの手伝ってね」
そして花子も普通の人間ではなかったのである。




「うわーー、高い建物がいっぱいだねー」
「ハハハ、花子ちゃん、迷子にならないように手をつなごうねー」
「ねー」
かつて笛吹がこれほどまでに幸せだったことがあっただろうか。
いや、ない。
恋は盲目。
愛は人を強くする。
人通りの多い道をサングラスなしで歩き、数多くの視線にさらされているにも関わらず、 笛吹はわずかな動揺すら感じている風ではない。
SSクラスの能力と、その能力の上を行く美貌を兼ね備えたエイリアンバスター・スペシャルスカッド 隊長に現在怖いものはない。
頑張れぼくらの無敵ング。
そこのけそこのけ笛吹が通る。

「おい、笛吹、言っておくけど花子ちゃんはまだ小さな女の子なんだぞ?」
バタバタと倒れる通行人を踏まないように気をつけながら、シェダルは笛吹に念のため注意した。
「んー、見ればわかるよ」
「お前が感じているその感情は、子供に向けるようなもんじゃないんだぜ?」
シェダルの言葉に、耐性がついていたため立ち直りの早かったブレイズとルークが 目をむいた。
「えっ、やっぱり笛吹さん、花子ちゃんにラヴなの!?」
「それは犯罪だぞ、忍」
「何バカなこと言っているんだ、皆」
先頭を歩いていた笛吹が振り返り、ふわりと満面の笑みを浮かべた。
ブレイズがイリュージョンを使っていないにも関わらず、何故かバックに百合やら薔薇やらが 咲き乱れる。
「10年後には、俺が29歳、花子ちゃんは約17歳。美味しい設定じゃないか?」
「うわーー!!笛吹マジだ!!!」
「光源氏プロジェクトを発動させる気満々だよ!?」
「でも現在はどう見ても犯罪だぞ忍!!」
殺人笑み光線に半径30メートル以内の人間が薙ぎ倒される中、なんとか踏ん張りながら笛吹の仲間 たちはツッコミを入れる。
「ダメだってば笛吹!ロ●コンの烙印を押されたいのか!?」
親友にこれ以上幼女に関する罪状を増やして欲しくない一心で、シェダルは諌めようとしたが 、植物の精霊という長年こっそり夢見てきたファンタジーに遭遇してしまった笛吹の耳には 入らない。
「ねーねー、ロリ●ンってなに?」と、花子が笛吹を見上げて質問したが、 それをあえて無視すると、万人を魅了してやまない美青年は芝居がかった動作で天を仰ぎ見た。
何故かタイミング良く、雲の切れ間から光が筋となって差し込んでくる。

「大丈夫、俺は今まで不幸続きだったんだ。12歳くらいの歳の差なんて神様が許してくれるさ・・・ そうだろ、神よ!!」

うん、いいんじゃない?

「ほら、お許しがでたぞ!!」
「今誰と会話したんだ笛吹!?」
「ついに壊れたか・・・忍・・・・・・」
「ちょっと待ったー!!リーはどうなったのさ!!」

話の方向がどんどんずれる大人たちに、ついに少年がキレた。
「考えてみたら笛吹さんが、●リコンになろうがなるまいがどうでも良くて、そんなことより リーはどうなっちゃったの!?リーがいなくなってこの子が現れたんだよ! 他者の陰謀にせよ、なにか超自然的現象にせよ、この子とリーが入れ替えられたに違いないんだ!! リーをぼくに返してよーー!!」

顔を真っ赤にしてエキサイトするブレイズの声に、笛吹がはっと我にかえる。

笛吹の頭の中で白い小動物がぴょこりと顔を出して、『笛吹さ〜〜ん☆』と可愛い声で 呼びかけてきた。
はっきり言ってメチャクチャ可愛い。

「それはその・・・・・・」
真剣に悩む笛吹の服を、花子がちょいちょいとつついた。
「あたしねー、田晶のところに早く帰りたいの」
「うっ・・・・・・」
笛吹のハイテンションに、花子自身が意図せずして水を差すようなことを言った。
「田晶って・・・花子ちゃんの好きな人・・・?」
「うん!あたしね、田晶に幸福の約束になったげるって言ったの!!」
ブレイズが笛吹の頭に金ダライを落とすイリュージョンをぶつけた。
「彼女の意思も尊重しなくちゃな、笛吹」
「一人で勝手に盛り上がって実に恥ずかしいな、忍・・・グォ!」
ルークにかかる重力を100倍にしながら、笛吹は心を落ち着けた。

「そうだな・・・ごめんな、みんな・・・俺が悪かったよ・・・俺が浮かれたらいいことなんて ないもんな、いつも・・・・・・」
「うわっ、笛吹さん今度は暗くなってるよ!?」
「笛吹のお兄ちゃん、落ち込んだの?」
「笛吹はこれくらいのテンションでいーの」
ひどいフォローを入れながらシェダルは花子の頭を優しく撫でた。
「しかしどうしたもんかな・・・・・・田晶って人を外に捜しに出てきたものの、 どこから手を付けたらいいのか」
「でもさ、さっきから話を聞いていると、花子ちゃんがいたのって少なくとも火星じゃないよね。 というかこの世界っぽくないよ。まず精霊だし・・・」
興味深げにブレイズが花子のほっぺたをにゅーっとつまんだ。
「ひゃーん」
「でもどっからどう見ても人間だよ!・・・植物の精霊だなんてやっぱり信じられないなぁ」
「へもあひゃひ、しぇいえいなの」
「何か証拠はない?例えば二酸化炭素吸って酸素を吐き出すとか・・・」
「どうやって二酸化炭素吸っているか確かめるんだ?」
シェダルのツッコミに、ブレイズがちっちっちと指を振った。
「笛吹さんと花子ちゃんを、空気の出入りする隙間もない光の灯る小さな密室に閉じ込めるんだ。
二人が生き続けることができたら、花子ちゃんが光合成しているという・・・」
「いや、密室に二人っきりにしたら花子ちゃんが危険な目に遭うかも知れないだろう」
「おい、何勝手なこと言っているんだ、お前ら」
笛吹はちょっとむっとした。
むっとした勢いで、ルークにかけられた重力が更に増えてアスファルトの地面にめりめりと 音を立ててめり込んだが、ルーク以外の誰も気付くことがなかった。
「ひとまずリョウタイという地名を捜してみよう。コンピューターで 検索したら一発だろう」
ようやく冷静さを取り戻した笛吹。

「お兄ちゃんがすぐに元のところに帰してあげるからね〜」
「うん!ありがとう」
頭を撫でる笛吹に花子がにっこり笑い返したそのとき。
突然花子が姿を消した。

「は、花子ちゃん!?」
「あ〜あ、笛吹さんが怖くて逃げちゃったんだね〜」
「まさか!!」
狼狽する笛吹と、ツッコミを入れつつ周囲に視線を走らせるブレイズ。
その傍らでシェダルが読心能力を解放した。
「・・・いたぞ・・・ここから87メートル先の曲がり角、空間転移能力者ともう二人。 俺たちの会話を聞いて花子ちゃんが精霊だと知ったらしいな。この子を売れば 金になるぞうっしっし、とか思っていやがる」
「すごい!お約束な誘拐犯だ!!」
手を叩いて喜ぶブレイズの側で、笛吹が怒りの炎を燃やした。
「あんな小さな女の子、しかも植物、植物を誘拐して金儲けの手段にしようと するなんて俺は断じて許さない・・・ルーク!!」
笛吹はルークにかけていた重力を解いた。
「いつまで寝っ転がっているんだ!ほら、花子ちゃんを奪還しに行くぞ!!」
「りょ・・・了解」
アスファルトの破片を落としながらふらふら立ち上がると、 健気にも文句1つ言わず、ルークは笛吹と共に走り出した。
道には笛吹の美にやられた通行人が数多く倒れていたが、二人の眼中にはない。
飛び越え踏み越え二人は猛スピードで、シェダルが示した方向へと駆けて行く。


「花子ちゃんの奪還はあの二人に任せて、僕たちは地道な調査に回ろうか」
ブレイズが自分の肩をとんとん、と叩いた。
笛吹の姿が見えなくなった途端、薔薇色の色彩を帯びていた周囲の景色が、 普段のものへと変わっていった。

ここはAB社員寮から少し歩いたところにあるMa25番地区。
メディフ本社ビルがあるオフィス街で、街を歩く・・・いや、倒れている人々はほとんど グレーなど当り障りのない色の服を着こなしている。
そんな中で、急にブレイズの服装が周囲から浮き始めた。
今日のファッションは、黄色地にリアルな虎のドアップの顔が蛍光紫でプリントされた トレーナーに、緑色の唐草模様のバミューダ、そしてその下にピンク色のレッグウォーマーを ぎちぎちに履いている。
対するシェダルは深緑色のジャケットに、紺色のジーンズ、オレンジ色のマフラー、 ハンチングキャップ、というちょっとオシャレな若者風ファッションをしているのだが、 出かける際ブレイズに、『地味だなぁ、周囲の景色と同化しちゃうよ〜』と 厳しい批評をいただいてしまった。

「んー、そうだなぁ・・・悪いなブレイズ、リーが戻ってくるのにはちょっと時間が かかりそうだな」
マフラーを巻き直すと、シェダルがのんびりとした口調で傍らの少年に言った。
「そんな、シェダルさんが謝ることじゃないよ!」
「いやさ、頼りない大人ばかりで迷惑かけてるなぁと思ってな」
「んー、まぁ、今回笛吹さんの判断力は当てにならないかもね・・・白髪は毎度だから仕方がないし」
残された二人組みがふっと大人のため息をついて、調査法について検討しようとし始めたとき、 傍らに一台の高級エア・カーが静かに停車した。

電動で開かれたドアの隙間から、とても重厚な旋律のオペラミュージック、 オルフの「カルミナ・ブラーナ」が流れ出す。

いやな予感に、ブレイズとシェダルの顔がひきつった。
「まさか・・・ね・・・」
「そのまさかだ、ブレイズ・・・」
固まったまま動けない二人の前に、一人のさわやかな男が 荘厳なメロディーを背負って姿をあらわした。



「案外早く奪還できたな。なんであいつらいきなり倒れたんだ?」
見事花子を奪還し、シェダルとブレイズのもとへ帰る途中、笛吹は首をかしげた。
「あのねー、あたしが『おにいちゃーん』って呼んだら、笛吹お兄ちゃんがにこ〜って笑った でしょ?そしたらねぇ、あのおじさんたちが『奇跡だ〜』って言って倒れたの」
ルークの肩の上に乗せてもらい、高い景色を満喫していた花子が、嬉しそうに笛吹の問いに答えた。
「空間転移使ったから、まさかあんなに早く場所がわれるとは思わなかったんだろうな。 確かにシェダルの索敵能力は奇跡だ、うん」
勝手に結論付けた笛吹に、ルークがぼそりと呟いた。
「無自覚というのは迷惑だ」
「何か言ったか、ルーク?」
「いや、こうしていると親子連れみたいだなと言っただけ・・・ぶべらっ!」
笛吹の裏拳がルークの鼻にクリーンヒットした。
「さて花子ちゃん、そこから金髪のお兄ちゃんは見えないかな?」
「んとねー」
鼻の頭を押さえるルークの頭にしがみついて、花子が前方をきょろきょろ眺めた。
「あ、二人いたよ〜」
「二人?」
「あのねー、さっきのお兄ちゃんと、髪の短いお兄ちゃん」
「髪の短いお兄ちゃん?」

笛吹は目を凝らした。
その視線に、気絶から立ち直り、ようやく起き上がり始めた人々が射抜かれてまた失神したが、 笛吹の目には入らなかった。

「笛吹さん、ここです!」

「うわっ、出た!!」
シェダルとブレイズの傍らで、こちらに向かってさわやかに、あくまでさわやかに手を振る トリスタンの姿を捉えて、笛吹は顔をひきつらせたのだった。




笛吹たちは社員寮地下にある例の実験施設に連れて来られた。
「今朝早く、正体不明のエネルギー反応が社員寮の一室に生じたとの報告が入りました。 それに関連しているのではないかと思った次第です」
地下1階部分の研究員用ルームに通されると、笛吹たちは促されるままに 来客用ソファーに身を落ち着けた。
「何かの能力なのか?」
笛吹は花子を自分の膝の上に座らせて離さない。
花子が鈴蘭の精霊だと知られた以上、頭のおかしい科学者達がこの幼い少女を 研究材料に使うのではないか、という危惧があったのだ。
・・・・・・それと花子が可愛かったからもある。

「いや、私もはじめ、未知の能力を隠している方がまだおられたのかと考えたんですが・・・」
無表情を貼り付けた笛吹の肩がぴくりと動くのを、トリスタン氏は面白そうに見ながら話し続ける。
「エネルギーのデーターから考察するに、自然発生である可能性が高いことが判明しました」
「自然発生?」
「はい、誰の能力かと問われれば、神のなせる業であるとしか言いようがありません」
そう言うと、芝居がかった動作でトリスタン氏は天井を仰いだ。

「そうですよね、神よ!」

はい、向こうの世界の神と共同で行いました。

「ということです」
「わかんないよー!誰と会話したの!?」
ブレイズが混乱するが、トリスタン氏は相変わらずさわやかに応対した。
「とにかく異世界とこの世界とが偶然ドッキングしてしまって、それに花子さんと リーさんが巻き込まれてしまったということです」

事態を理解した3人は重く沈黙した。
ルークはすでに、理解を放棄して居眠りをしている。
花子は笛吹の膝の上で、急に静かになった周囲をきょろきょろと見回した。
「ねえねえ、どしたの?」
笛吹は見上げてくる花子の頭を、優しく撫でた。
「異世界・・・か・・・精霊とかいるんだから、いわゆるゲームにあるようなファンタジーな 世界かな」
その隣でブレイズが心配そうに口元に手をやった。
「リーは無事かな・・・花子ちゃん、君がいたところって危険がある?」
「んとねー、男の人っぽいお姉ちゃんとか、女の人っぽいお兄ちゃんとかいたけど、 悪い人じゃないの」
ブレイズは冷たい目で笛吹をちらりと一瞥してから、すぐに花子に視線を向け直した。
「そんなに危険なところじゃないんだね?」
「おい、ブレイズ、何で俺を見たんだ」
「変なモンスターとかドラゴンとか魔王とかいないんだね?」
ブレイズの精神攻撃に笛吹は怯えた声を上げたが、少年は黙殺した。
もちろん、先ほどまでリーを放って浮かれていた笛吹への仕返しである。
「そんなのいないよ」
花子は黒い瞳をくりくり動かすと、ブレイズをじっと見つめ返した。
「ねえねえ、あたし田晶のところに早く戻りたいの」
「・・・・・・」
ブレイズは困ったように笛吹の方を見た。
笛吹はブレイズの視線を受けて、トリスタン氏に視線を返した。

「元に戻す方法はないのか?」

「ありますよ」

「・・・・・・・・・・・・そうか・・・自然発生だからそううまくいくわけ・・・ってえぇっ!?」
笛吹が顔を輝かせた。
「あるの!?」
ブレイズも喜色満面でソファーから立ち上がる。

トリスタン氏は「ハハハ」とさわやかに笑うと、指をぱちんと鳴らした。
「アルカミル」
「イエス・マスター。ぽちっとな」
部屋の隅に控えていた、紅茶色の髪の青年アンドロイドが、手に持っていたコントローラーのボタンを ぽちっと押した。
瞬間、低い機械音と共に、トリスタンから向かって左側の壁が持ち上がり、奥に部屋が現れた。
「おぉ」
目を覚ましたルークが不機嫌な顔のまま、嬉しげな声を上げた。
「秘密基地だな!」
「おまえいいから寝てろよ。・・・で、あの機械がなんなんだ?」
笛吹が言った機械とは、現れた部屋の中央に堂々と置かれている鏡のような装置のことである。
「今朝のエネルギー場のデータをもとに、私の子飼いの科学者達に依頼して、数時間で作らせた 異世界とこの世界をつなぐゲートを人為的に生じさせる装置、略して『蝕』です」
全然略していない、しかもどこかからかパクッた名前をトリスタン氏は披露した。



「お兄ちゃんたち、ありがとうね」
もやもやと怪しげな光を放つ『蝕』の前で、花子が手を振った。
「花子ちゃん、元気でねー!」
「風邪ひくなよー!」
「歯を磨け」
中途半端に古いネタをかます他の隊員たちから少し離れたところで、 笛吹はじっと花子・・・・・・いや、『蝕』を見つめていた。

それに気付いたシェダル。
喋る植物(しかも可愛い女の子)と離れる悲しみに暮れる笛吹を慰めようと、近づいて肩を 軽く叩く。
「どうした笛吹、お前も何か言ってや・・・・・・っておい!」
笛吹の意図を知って、シェダルは愕然とした。
親友に自分の考えがばれたことを知り、笛吹は少し躊躇ってから『蝕』に向けて突然走り出した。
「ルーク!笛吹を捕まえろ!!」
シェダルの声が部屋に響くや否や、ルークは空間転移並みのスピードで笛吹の背後に現れ、 そのまま羽交い絞めにした。
「少女を帰さないつもりか、忍」
「違う!俺も植物が喋る世界に行くんだーーーーー!!」
笛吹が絶叫した。
「俺も鈴蘭の精霊に幸福の約束になってもらいたい!薔薇でもアサガオでもラフレシアでも ぺんぺん草でもいいから友達になってくれーーー!!」
「暗い奴だな、忍」
死に物狂いでもがく笛吹の抵抗をものともせずに、ルークは眉間のしわを増やして ツッコミを入れた。

「ハハ、なんだか笛吹さん、私と初めて出会った頃とキャラが変わっていますね」
「イエス・マスター」
部屋の隅ではトリスタン氏がアルカミルと共に、和やかに傍観に徹している。

「花子ちゃん、このお兄ちゃんちょっと今錯乱しておかしくなっちゃってるんだ。 気にしないで行っちゃいなさい」
花子が笛吹をじっと見ているのに気付いて、シェダルが声をかけた。
少女は首をちょっと傾けると、半狂乱になっている笛吹にてけてけと近づいた。
「あのねー、笛吹お兄ちゃんの部屋にいっぱい花や草があったでしょ?」
「え・・・あ、うん・・・」
花子の声に笛吹が我に返った。

「あの花や草たちね、笛吹さんのこと大好きだって言ってたよ」

笛吹の目に涙が浮かんだ。

「・・・・・・俺は間違っていた・・・ごめん、フランシーヌ、エイミア、ジョリン・・・・・・!」
「エッ、笛吹さん、花に名前付けてるの!?」
ブレイズが顔をひきつらせたが、笛吹には聴こえなかった。
「花子ちゃん、見苦しいところを見せちゃったな・・・元気でね・・・!」
「お兄ちゃんも元気でね」

花子が『蝕』をくぐって姿を消しても、しばらく笛吹は手を振りつづけた。
悲しみに引き裂かれそうな心を隠して、その日一番の微笑を顔に貼り付けて・・・。

代わりに『蝕』の中から小鳥のさえずるような甲高い声が聞こえてきた。
自分の名前を呼ぶその声に、ブレイズはやっと胸をなでおろし、心の底から笑みを浮かべたのだった。



おしまい☆






あとがき

というわけで、 マイフレンド・倉沢陸嬢との合同企画による、キャラクター取替え小説でした!

なんとなくキャラクターが似ているよな・・・ということで入れ替えてみたのですが、 書いてみるとこれが案外難しい。
人様のキャラクターって非常に動かし難いのですよね。
版権モノの小説書いていらっしゃる方の凄さが判りました。

花子はもっと可愛いのよ!
というか花子って書き続けたけど、花って呼ばれているのよな、実は!

ひとまず彼女の設定と魅力にうちの主人公が完全に骨抜きにされてしまい、 話がなかなか進まなくなって中盤はかなり困りましたね。
罪な女・花子。
おかげでラストのほうは勢い任せな文章であることが、ありありとわかります(笑)
情景描写もへったくれもありません。

ええと、この場を借りてお詫びします。
倉沢嬢、待たせた挙句こんなヘボ作品でごめんね(>_<)
笛吹ファンの方、かなりバカに仕上がってしまってすみません。
本編の笛吹とは別物だと思ってください。(笑)


それでは長々と読んでくださった皆々様、ありがとうございました!

2001.11.20




〔書庫へ〕