序章



 太陽系第3惑星・地球は、西暦2500年ごろ惑星規模の産業革命を迎え、超高度経済成長 期に入ると同時に人口の過密化問題に頭を悩ませることになった。
 しかし27世紀にはいると ついにかねてから開発されていた重力制御システムとワープシステムが完成し、長距離航宙型 宇宙船が誕生する。

 宇宙開発時代の到来である。

 地球の資源を貪り尽くした人類は、資源豊かな次なる星めがけてたくましく、我先にと宇宙 へ飛び出していった。
そして地球を中心とした太陽系連邦が発足し、それら他の天体を管轄下 に置き、支配することとなる。

 開発に次ぐ開発。
 数多の星に人は移住し、その勢いたるや天を衝かんばかり。
 ワープシステムも改良に改良を重 ね、さらに遠くへ遠くへ開発の触手を伸ばした・・・そんな時に事件がおきた。
 西暦3925年9月26日AM3時15分を最後に最前線調査班の通信が途絶えてしまったの だ。
 班の調査していた星は、ケフェウス型変光星の近くにあるため、便宜上ケフェウス型変光星 系と呼ばれる星で、地球から約220万光年も離れたところにある。
 冥王星の衛星カロンにある、班を送り出したYAMA研究所は、通信機の事故と判断し、新た に8人の技術者を送り出した。
 10月16日に到着の通信が届いた。

10161710(10月16日17時10分)「チョウサハンノウチュウセンハッケン」

10161724「セイタイハンノウイッタイカクニン チョウサカイシ」

10161733「ガイヘキニソンショウハッケン ナンラカノコウゲキニヨルモノトオモワ レル ヒキツヅキチョウサヲ・・・」

 ここで通信は途絶えた。
研究所は何者かによる攻撃的な妨害工作の可能性を考え、再度技術者 と兵隊を送り込んだがまた通信不能になってしまった。
 そして計26人がいまだ帰還していない。
 異常事態に研究所は民間企業の手に余ると判断し太陽系連邦に報告した。
連邦は軍隊に出動要 請し、訓練を受けた軍人15人が、宇宙船<ポラリス>に乗りケフェウス型変光星系に向かうこ とになったのである。
 到着すると兵士たちは早速生命探査機を使い、捜査に乗り出した。

12051152「セイメイタイヲタンチ タダチニチョウサヲカイシ」

 生命反応は、不時着の相をていしている3機の宇宙船のうちの1つ、1番最後に送り出した宇宙 船<オネスト>の中にあった。
 15人各々が持つ生命探査機の画面には、機関室にあたる部分に何 か巨大な生物の存在を示す光が点滅している。
 兵士たちは5人ずつ3つのグループに分かれると 作戦どおり散らばった。

12051155「ぽらりすノノリクミインノイタイハッケン」

 <オネスト>の船内の空気は酸性を帯びていた。
 露出部に特殊パームをつけていたので特に支障 は無かったのだが、点在して転がっている<オネスト>の乗組員の遺体は、どれも強烈な酸を浴び たかのように一様に顔面部分が溶け、肉塊と化していた。
 謎の生命体は目潰しを心得る知的生命体 であることは明らかだった。

12060001 「セイメイタイトソウグウ セントウカイシ」

 生命体は機関室横の通路から動いていなかった。
 3つのグループは3方向からいつでも突入でき るように体勢を整えていた。
 と、その時事態は急変した。
 生命体が突如機関室に向けて突進し始めたのである。
 機関室には扉をはさんで第2グループが待機していた。
 他のグループが慌てて機関室に踏み込む と、強酸で溶けたドアの向こうは血に染まっていた。
 酸で目潰しされ悶絶する第2グループの兵士た ちに半透明のスライム状の物体が襲い掛かっていたのだ。
 物体から大きな触手のようなものが伸び、第2グループ最後の兵士の手足を引きちぎる様を半ば 放心状態で見ていた部隊の隊長リースは、血しぶきが顔にかかるとやっと我に返り、砲撃命令を下 した。

 火炎放射器、ショットガン、機関銃が一斉にそれぞれの音をたて、スライム状の生命体に向けて牙 をむいた・・・が効かない。
 触手が振り回されたと思った瞬間、第1グループの兵士4人が壁に叩きつ けられる。
 全員即死だということは確認しないでもわかった。
 もう何がどうなったか判らない。
 火が飛び交い、液体窒素が流れ出し、銃声が響き・・・気がつくとリースは<ポラリス>の操縦室で 荒い息をしていた。
 周りにはもう2人兵士がいる。
 生命探査機で確認すると3人以外で反応を示し ているのは<オネスト>から急速に接近してきている大きな反応1つのみである。
 「ンナロ〜〜!!」
 と叫んだかどうかはともかく、リースは<ポラリス>を急速発進させ、離陸後ミサイルを5発こ れでもかと<オネスト>に打ち込み、ほうほうの体でケフェウス型変光星系を後にしたのだった。
 生還した3人は英雄として祭り上げられ、宇宙船から降りた彼らに火星長官が駆けより 「私の友人になってくれまいか?ヒーローが友人だとみんなに自慢したいのでね」と ジョークを飛ばしたとかなんとかは有名な話だ。
   なにはともあれ3925年、思い描いていた素晴らしい出会いではなかったものの 地球外知的生命体と遭遇したのだ。
 この事件は生命体と交戦し、確認が取れた日の日付をとって126事件と呼ばれ 、果ては「未知との遭遇デー」と祭日になったのである。

 当然ながらこの事件は大きな波紋を呼んだ。
 最前線開発班はおろか、他の天体に移住した人々を も恐怖に陥れ、地元の再調査を希望する人々があとを立たなくなり、さらに開発反対グループが連 日マスコミを使って騒ぎ立てた。
 政府は対応にてんてこ舞い。
 開発に関する条例の変更を巡って日夜熱い論争が議会で繰り広げられた・・・わけではなく、 何故か報道規制法やら医療費の自己負担増額やら関係ないことばかりが次々と議決されたりした。
 「なぜ今?」と誰もがムカついたが、自分達が選んだ議員たちのすることなので仕方がない。

 そんな時、美形宇宙人が登場した。

 耳が少し長いだけで、あとは地球人と変わらない容姿を持っている。
 モデルクラスの美人っぷりだったが、仮面を貼り付けたかのように無表情だった。
 宇宙船の故障で火星に不時着したという。
 不時着したのが都市近郊の荒原だったため、目撃者も多数いた。
 宇宙船の動き(ジグザグ飛行やら、突然消えては現われたり) 、形状が地球人の間で普及しているものとは明らかにかけ離れていたので、 目撃者達は「あれはマジだゼ」と言い張った。
 しかしあまりのタイミングの良さに大多数の人は最初、彼女が宇宙人であることを信じず、連 邦が事件から民衆の目をそらさせるための工作だとこぞって非難した。
 が、本当のような嘘が存在 するのと同じく、嘘のようなほんとが存在するもので、確かに彼女が乗ってきたという宇宙船は 地球のものと全く基本構造が違ったのだ。

 世間の目はともかく、連邦のもてなしを受け、初めは意味不明の言語をつむぐだけの彼女だっ たが、2週間後には連邦公用語を完全にマスターし、知能の高さを証明した。

 「私は☆○×◎♯から来た★*@です」

 出身地や彼女の名前は地球の言葉では表現できなかった。
 天文学者たちは彼女から得た情報、方 向、飛距離などを元にして、彼女の星を割り出した。
 ハクチョウ座の61番星の連星の周りを回っている惑星、61α星だった。

 彼女は地球名でマキノと呼ばれ(一番その発音が彼女の本名の発音に近かったらしい)、宇宙船 が直るまでという条件付で研究に応じた。
 その間、マスコミは宇宙人襲来説や政府のごまかし説を日々取り上げ、ついには マキノの実の妹だと名乗るそっくりさんが現われたり(その後彼女は芸能界デビューを果たした)、 61α星を崇める新興宗教が興し、火星を攻撃せよと道の往来で叫んだ地球人教祖が逮捕されたり (その後破防法の適用とかなんとかで宗教は潰される)、 その年のガニメデ流行語大賞に「マーズ・アタック」がノミネートされたりするなど、 地球人はわけのわからない盛り上がりをみせた。

 さて、先にも述べたとおり、マキノの宇宙船は奇妙な構造をしていた。
 緊急時のための自動操縦システ ムはあったが、その他平時における操縦システムが無かったのである。
 不思議に思った技術者がマ キノに聞いたところ、彼女は怪訝な表情で答えた。

 「私の意志で飛ばしたのですが・・・」

 言葉どおりの意味だった。
 恐ろしいことに彼女の『意志』が宇宙船を動かしていたのだ。

 いわゆる超能力と呼ばれるものである。
 その中でもマキノが用いたのは、物体を手で触れずに動かすことで名高い念動力・・・ サイコキネシスだった。
 宇宙船に詰め込まれていた正体不明の機体は、意志を増幅する機械で、なんと彼女はそ れを使って61α星人初の宇宙進出を成さんとしている最中だったのだ。
 彼女の母星までの距離はわずか11光年と近いにも関わらず今まで 宇宙で遭遇しなかったわけである。
 61αはESPで都市機能が成っているらしく、科学に関しては地球人のほうが上なので、彼女 は機械が直り次第61αに戻って代表者にこのことを伝え、友好関係を築く努力をしたい旨を 連邦長に話した。
 1ヵ月後、彼女は星に帰還し、その1週間後、地球に数隻の宇宙船が現れた。

「あなた方からは学びたいことがたくさんあります。また私たちの力もあなた方の役に立つでしょ う」

互いに助け合い、文明を高めあう。太陽系連邦と61αとの友好条約はこうして結ばれた。

 技術の更なる発達が航行可能空間をさらに広げ、宇宙歴3232年現在、生物が確認された星の数は7 1、そのうち条約を結んだ星は8つ、総称してエイトコミューンと呼ばれている。
 宇宙広し。
 様々な文明社会があって、人類は「井の中の蛙 大海を知らず」という古くからの諺を噛み締める のであった。


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