イカイカマカイカ


 「笛吹さん、笛吹さんっ!」
 選択教科を終えて、教室を出た笛吹の元に、ブレイズが声を弾ませながら駆け寄った。
 「面白いニュース拾ってきたんだ!」
 「こわおもしろっなのっ!」
 「コワオモシロ?」
 ブレイズの肩の上でさえずるリーの言葉の意味を理解できなかった笛吹は、復唱して首をかしげた。
 「西のハニ町に行くのに、幹線道路の他に、山を抜けるバイパスがあるんだけど、そのバイパスの途中にトンネルがたくさんあるの知ってる?」
 「いや、知らない。行ったことも無いな……」
 笛吹は頭の中に地図を思い描いた。メディフ社など、ビジネス街が中心となっている火星都市だが、それを取り囲むように、住宅街が広がっている。ハニ町とは住宅街の一つだ。
 笛吹はエイリアンバスター専用の社員寮に住んでいるし、何をするにも買うにも、都市で事足りてしまうので、火星に来て以来、都市から出た事は殆ど無かった。南の方の外れにある植物園に遊びに行ったくらいだろうか。なので、笛吹は、ハニという町は名称だけ知っている程度であり、足を向けたことすら無い。
 「それがどうしたんだ?崩落でもしたのか?」
 「ふっふっふ」とブレイズが含み笑いをした。「そこの4つめのトンネル、カコラ山トンネルって言うんだけど……出るんだって」
 「出る……?何が?」
 「幽霊」
 手を胸の前にだらりと下げ、恨めしそうな表情を作って笛吹を覗き込むブレイズ。
 その肩で小動物が「キャーーッ!」と目を瞑りながら嬉しそうに叫んだ。
 「こわおもしろっなの!」
 「ねぇねぇ笛吹さんっ、一緒に幽霊見に行こうよ!」
 「きっとトンネルの中には井戸があるんだわっ!」
 「そいでね、貞○がずるずる這い出てくるんだよーっ!きっと来る〜きっと来る〜♪」
 キャッキャッとはしゃぐ少年と小動物に、笛吹は「落ち着け」と手で押える身振りをした。
 「あのな、幽霊なんているわけないだろう」
 「いるよぅ、笛吹さんもこの間、一時だけ幽霊になってたじゃんか」
 「……あれは精神体になってたんだ。幽霊じゃない」
 ブレイズが言ったのは、アンバー星での任務の際、笛吹の身に降りかかった災難のことである(「UNIVERSAL DREAM」の第8章参照!)
 「でもシェダルさんが言ってたよ。笛吹さん、アンバーの選別所の人たちに幽霊扱いされてたって。精神体なんて言ってるけど、身体が無いってことは幽霊と同じじゃんかー。笛吹さんはつまり、自覚の無い幽霊だったってわけだよ!たち悪ッ!あはははは!」
 ぐっと詰まる笛吹。
 「……百歩譲って、俺があのとき、幽霊と間違えられても仕方ない状態だったとしよう。でもあれは、何者かの能力によってあんな状態になってしまったんだ。怪奇特集で取り扱ってる怨念やら呪いやら、そんなのは信じないからな」
 「僕は自分で確認しない限り、存在するもしないも決め付けないよ。デマかもしれないし、笛吹さんと同じ状態の何者かがトンネル付近をうろついてるのかもしれないし、本当に貞○なのかもしれない」
 「きっと来る〜きっと来る〜♪」と、あの歌をさえずるリー。リーが歌うと、あの歌も少年少女合唱団の歌う童謡のように聞こえる。
 「……いや、貞○は無いだろ」
 笛吹はブレイズの頭に手を置いて、髪をぐしゃっとかき混ぜた。大人が子供に言い聞かせるような仕草である。
 「俺は忙しいんだ。ルークにでも連れて行ってもらうんだな」
 「忙しいったってどうせ植物の水遣りくらいでしょ。それに白髪が行くのは決定してるよ。カコラ山に山賊が出たら戦わせるんだ」
 「いや、出ないから」
 笛吹は即否定した。「それにルークが行くなら、別に俺まで行かなくてもいいだろう」
 Sランクの攻撃能力を有しているからといって、年端もいかない子供たちが真夜中の郊外の山に行こうとしているのを、知っていながら放っておくほど笛吹は無責任では無かった。ブレイズたちの頑固っぷりは熟知しているので、このまま押し切られるかもしれないと、笛吹は実は弱気になって。しかし、スペシャルスカッドで最年長のルークがついて行くのなら、自分が同行してあげる必要は無いし、安心して(……不安は別の意味で多々あるものの)送り出せるというものだ。
 しかしブレイズは口を尖らせて、ぶーぶー言った。
 「駄目だよー。笛吹さんにも同行してもらわなくちゃ!笛吹さんはなんだかついてないし不吉そうな影を背負ってるから、幽霊も仲間だと思って出てくるかもしれないでしょ?幽霊の出現率アップのためにもさー!」
 「おいっ、不吉そうな影ってなんだ……?!」
 「後ろ向いても何もないってば、言葉のあやだよ」と笑うと、ブレイズはふと気付いたように口の端をにやりと上げた。
 「はっはーん、さては笛吹さん、幽霊が怖いんだなっ!」
 指を突きつけられ、黒髪の青年の美麗な無表情が僅かにひきつった。図星だった。
 「なっ、おっおれが幽霊なんて怖がるわけないだろう」
 動揺も露わな声に、ブレイズとリーは生暖かい眼差しを注いだ。
 「そうでした、笛吹さんは自他共に認める小心者でしたっ」
 「貞○が怖いのね。ごめんなさい、ムリを言ってお願いして……」
 「いや、まぁ、正直言うとだな、貞○は怖いよ。あれは呪いと怨念の複合体だから。見る者を怖がらせるための姿形をわざと演出している。でもあれは映画の中の話であって、現実となると別だ。あんなずるずるした不気味なのが存在するわけがない、というか存在したら俺は嫌だ……!」
 「どうあっても存在を否定したいわけだね。もういいよ、わかったよ、笛吹さんの弱虫毛虫!」
 「ウスイさんはお留守番をお願いなの」
 ため息をつくと、ブレイズとリーは笛吹に背を向けて歩き出した。
 「幽霊の出現率下がっちゃうね。出てきてくれるかなぁ」
 「シェダルさんもルークさんもがっかりするわね」
 何歳も年下の少年に弱虫毛虫とまで言われて沈んでいた笛吹だが、リーの言葉に慌てて顔を上げた。
 「おい、シェダルも行くのか?」
 「勿論行くよ。シェダルさんだったら、生身の人間のいたずらなのか、本当に幽霊なのか看破できるから」
 「……だ、だったら俺も行く」
 たとえ、仮に、万が一、幽霊がいるとしても、それがやばいものであればシェダルはすぐに察知して警告してくれるだろう。(シェダルのテレパスが怨念やら呪いやらの怪しげな類にも反応するのかは定かではないが)
 何より、自分を除くスペシャル・スカッドの全員が参加するイベント(?)で置いてけぼりを食らうのは、寂しいものを感じた。
 笛吹は昔から、お化けもホラームービーも大の苦手だった。
 先刻から話に出てくるあの映画など、笛吹にとっては史上最悪の代物である。(怖いのなら見なければいいのだが、怖いもの見たさという言葉があるように、無用な好奇心が笛吹の心を駆り立ててしまったのである)
 しかし、疎外感を感じるのはもっと避けたいところだったのだ。








まだまだ続く。
伏字にする必要な無いかと最後まで悩んだ貞○。
おそらく皆さんお判りだろうとは思いますが、作中に出てきた映画は「リ○グ」です。
(2005.8.8)


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