DOGFIGHT! 2


   「それがこれというわけか・・・」

 要領を得ないルークの説明を、シェダルにうまく解説してもらいながら(ルーク は自分がうけたこと、幼女にもてたことををやたら強調したがって話が進まな かった)、笛吹忍は手元の写真をじっと見つめた。

 「その女の子達は?」
 「写真を撮ったすぐ後、母親らしき女性に呼ばれて走り去った。不思議少女だ。うむ」
 「ふん・・・・・・多分、薄紅の子がプリコグニショナーで、水色の子がイリュージョニ ストだったんだと思う」
 「プレコンデショナー?髪に良さそうな響きだな」
 「ちがう、プ・リ・コ・グ・ニ・ショ・ナー。予知能力者のことだ。イリュー ジョニストがカメラのフィルムに予知イメージをぶつけて現像したんだな。いわ ゆる念写というやつだ。その辺はブレイズのほうが詳しいこと知ってると思うけど」

 あいにく少年は、「コンビニで期間限定ぶたまん買ってくる!」と小動物もろとも寮を 飛び出し、この場にはいなかった。
 現在、夕方の4時50分。対チーム形式の模擬戦闘が終了し、笛吹の部屋でくつろい でいるところである。
 先ほどの訓練で、スペシャル・スカッドから戦闘に参加したのは笛吹、ルーク 、ブレイズの3人(シェダルの能力は戦闘向きでなく、リーの能力は訓練向きでは ないので不参加)。
 バリバリ戦闘派な3人組は、対する第6チーム選出の3人(揃ってAクラス級の素晴らし い能力保持者)を、開始20秒かからずにノックアウトさせてしまった。遮蔽物の無い訓練 場での模擬戦で、しかもスペシャル・スカッド側は二人も広範囲攻撃型能力者が参加し、 さらにそろいも揃ってSクラス能力保持者だったのだから、条件で笛吹たちが勝っていた ことは否めない。
 言うなれば、オールスターな選手揃えの巨人軍VS高校野球チームといったところであった。
 その中でも1試合で全打席場外ホームランを打ちかねない、4番バッターことルーク ・カースレインが、今日に限っては、3度の飯より大好きな戦闘訓練最中にも、何故か 浮かない表情をしていた。
 気付いたのは、マネージャー的存在のシェダル・ディケンズ。
 年がら年中不機嫌な表情の青年の感情を、正確に読み取るという芸当は、彼をおい て他に誰がいようか。

 「つまりこれは、そのうちお前の身に起こることなんだ」
 笛吹は無表情で厳かに言ったが、微妙な声の揺れが、笑いをこらえていることを物語 っている。

 「まぁ、現時点での予知であって、確定未来じゃないから、変えることはできるだろ うけど」
 「かくていみらい?」
 「はっきり決まった未来じゃないってことさ」
 
 理解していないルークに、シェダルが顎をさすりながら言った。

 「少なくとも、お前さんはこの写真に映っている状況に出くわさないよう注意を 払っておけば、こんな目に遭わずに済むというわけだ」
 「つまるところ・・・私は具体的にどうすればいいだろうか?」
 「さぁねぇ・・・ひとまず犬の側に寄らないようにしたらどーだ?」

 笛吹の手元を覗き込みながら、シェダルは噴き出すのをぐっとこらえる。
 写真の中のルークは、大きな茶色の犬に尻を噛まれて、なんとも情けない顔をしていた。

 「しっかし、いい顔してるよなぁ、これ。我らが船長に見せたらバグりまくること間違 い無しだぜ」

 楽しげなシェダルをルークはキッと睨んだ。
 「決して見せるな!このような情けない姿、人目に触れては生きていけない!」
 「キネッサはアンドロイドだから人じゃないぜ〜、気にするない」
 「恥をさらすことに変わりない!このようなカストルの戦士がとるまじき姿・・・晒 したが最後チョンマゲてハラキリせねば!」
 「うん?ハラキリってカストルの風習だったか?」

 笛吹が些細な疑問を口に出したが、ルークは頭に血が上ってそれどころではなかった。

 「おのれ犬畜生、やれるものならやってみるがいい!ルーク・カースレインはここだ !!私は逃げも隠れもしない!!」と椅子から立ち上がり、拳を振り上げた。
 「私はカストル最強の戦士だ!イェスッ!」
 「そうだな、強いなぁ、すごいなぁルークは」と、笛吹がやる気の無い声で相槌をうつ。
 「まぁ外出しないで、なるべく寮の中にいるようにすれば犬には遭遇しないだろうな。 あとは、ブレイズにこの写真を見せないことだ」
 「ブレイズに?何故だ」

 眉根を寄せる銀髪の青年に、呆れたような眼差しを笛吹は向けた。

 「学習能力無いのかお前は。こんな写真見せたら、ブレイズが面白がって犬を連れて きてお前にけしかけるに決まってるだろう」
 「うんうん、ありえるねぇ」

 頷くシェダル。
 ブレイズは確かに、ルークをいじめ・・・いや、おちょくることを生きがいとしている。
 別にルークに罪は無いのだが、ブレイズにとっては『大人で筋肉馬鹿』というだけで攻撃対象 になるのである。

 「なるほど。少年にこれを見せなければいいのだな」
 「あぁ。それとリーにも言わない方がいい。ブレイズに確実に言っちゃうだろうから」
 「了解」

 ルークは重々しく頷くと、自販機にジュースを買いに部屋を出て行った。

 「変なところでプライド高いよな、あいつ」

 がたいのいい後ろ姿が玄関のドアに消えてから、笛吹がぽつりと言った。

 「本当のところ俺、ルークが犬に尻を噛まれるところ見てみたい、なぁ、とか・・・ふっ!」

 今度こそ噴き出す笛吹。

 「だってさなんだかこのルーク、近所のブルドックに噛まれてるの○太っぽくないか?」
 「あははー!オレもそれ思った!助けてド○えもーんって感じだよなー!んでそのブルド ックの首輪には何故か棘々がついてて怖そうなんだよねぇ。でもルーク、本気で落ち込んで たろ?言いたいのに言えなくてさー」
 「ハラキリするまで思いつめるようなことだったとはな。笑うに笑えないからさっきはつら かったぞ・・・でもさ、お前も見てみたいだろ?こっそり犬連れてきてけしかけてみようか?」
 「うーわっ、一緒にしないでくれよ笛吹くーん。オレはそこまで非道な奴じゃぁない」
 「さっき『助けてド○えも〜ん』って面白がって言ってたのはどこのどいつだよ」
 「それとこれとは別だぜー!まぁオレは止めないけどな、あははっ」
 「知ってて止めないのは同罪だ」

 二人が和やかに非道な会話をしていると、突然ドアがバタンと開き、慌しい足音と共に話の ネタになっていた男が飛び込んできた。
 手にはジュースは持っておらず、さっきよりも真剣な表情をしている。
 自販機にたどり着くまでに、何かがあったようだ。

 「どうしたルーク?」

 驚いて笛吹が声をかけると、ルークがぼそりと「犬だ・・・」言った。

 「犬がいた・・・ブレイズが・・・」

 と、そのときルークの声に被さるように、部屋のチャイムが鳴った。
 シェダルが「これはこれは・・・」と嬉しげに言うと、玄関を開けに席を立つ。
 残されたルークと笛吹。

 「ブレイズが犬を連れてきたのか?この写真のことを知らないはずなのにどうしてまた・・・」
 「シノブ、君が事態を面白がっているように見えるのは私の気のせいか?」
 「・・・いや、気のせいだろう」

 顔に映し出しそうになる期待の表情を、無理矢理押し隠しながら、淡々と黒衣の美青年は 返した。

 「お前のハラキリシーンなんて見たくないからな。えぐいのは嫌いだ」
 「では、私を全面的に支援してくれるのだな」
 「うん?・・・ま、まぁ・・・全面的にというわけにはいかないだろうけど」
 「無論、報酬は出す」
 「報酬?」
 ルークは羽織っていた厚手のパーカーのポケットから、なにやらカードの束のような ものを取り出すと、そのうちの1枚を笛吹にちらっと見せる。
 興味なさげに一瞥し・・・ようとしたが、笛吹は次の瞬間声をあげて椅子から立ち上がった。

 「そっ、それは超レアカード!『進化を拒んでイヤイヤするハテナダネ』じゃないか ーー!!」
 「くっくっく、先日ブースターパックを買ったところ、運良く出たのだ。欲しいか?」

 無表情の仮面を脱ぎ捨て、愛という文字を目に爛々と掲げて飛びつこうとする笛吹 を交わしながら、ルークは笛吹の頭上でカードをひらつかせた。
 植物スキーの隊長が、ちびっこの間で大流行のゲーム、「オフダモンスター」の 草系フダモン・ハテナダネを愛してやまないことは、スペシャル・スカッドの中では 有名な話だったのである。
 実はこのレアカードをゲットした時点で、ルークは笛吹にあげようと思っ ていたのだが、シェダルが「何かあった時の切り札として持っといたほうがい いんじゃない?あいつ踊るぞー」と入れ知恵してくれたので、大切に保管していたのだ。
 物欲しげな瞳でカードと自分を見比べる笛吹を見て、ルークは心の底からシェダルに 感謝した。





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