第3章 NATURAL BORN KILLER


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 ルーク・カースレインの父親は、宇宙最強の戦闘種族と 呼ばれているカストル人、母親は地球人だ。
 カストル人はとにかく気性が激しいことが有名で、 年がら年中戦争に明け暮れている。
 彼らの戦闘手段は、地球と友好を結んでから銃火器類が 持ち込まれたものの、主に身1つで戦うことが多い。
 身1つといっても、カストル人は身体から鎌を出すことができるので、 それを使うのだが。
 肉体系特殊のランクは純血のカストル人の平均値をCランクとする。
 カストル系のハーフは比較的多く、能力至上主義のカストルにおいて、 戦闘能力の高い混血児達は、高い評価を受けていた。
 その中でもずば抜けた強さを持ち、Sランクを認定されたルークは、 気性の激しいカストル人だけあって好戦的であることは 間違いないのだが、地球人やその他の種と比較すれば多少喧嘩っぱやいものの、同種 の中にあっては穏健派的存在であったとか。
 父親譲りの銀髪と彫りの深い眉目、全体的にふてぶてしいが端整 と言える顔立ち、浅黒い肌、両耳にあけたピアス、198センチの 身長と無駄な肉のない筋肉質の身体でもって、存在するだけで他者 を圧倒してしまう彼は21歳である。

 「・・・眠い・・・・・・」
 宿舎管理室の奥にある知る人ぞ知る小部屋・・・通称尋問室から出てくると、 ルークは大きな欠伸をした。
 その後ろを無表情ながら、目に少々怒りを映して笛吹が続く。
 「何で俺まで・・・」
 乱闘の際、ルークに蹴飛ばされた将来を嘱望されたカストル 系ハーフが内臓損傷の重傷を負ったため、形的には向こうが 悪かったものの、傷害事件ということで二人はそれぞれの部屋 で謹慎二日間を命じられたのである。
 笛吹は手加減し、怪我人も出さなかったから罰せられなくても 良いところなのだが、尋問員は笛吹に隊長たる責任を問い、笛吹の 反論に耳を一切貸さなかった。
 「まあまあ、私が身体を張って命を助けてやったのだから、そう怒るな」
 「俺はお前なんかに助けを求めた覚えはない。それに俺が隊長だ って?責任感が全くない俺を勝手にそんなものにして・・・!!」
 「5人の中でシノブが1番ましな責任感を持っているように見え たのだろう。おそらく、多分」
 「・・・その呼び方やめてくれない・・・?」
 この宇宙で笛吹のことを「忍」と呼ぶのは、亡くなった両親以外 で今のところルークだけである。
 「何が責任だ、くそっ!」
 管理室にいる管理員達が笛吹の怒気を感じとり、びくっとした。
 笛吹の能力を知っている彼らは、彼が怒ることを恐れているらしく、 さっきから笛吹の一挙一動を恐々と見ている。
 それに気がついて笛吹はさらに機嫌を悪くし、「カストル系の戦闘狂 と一緒にするな」と小さく呟いてさっさと管理室を出て行った。


 「シノブ、そんなに怒ると血圧が高くなって早死にする」
 いちいち神経を逆撫ですることを言いながら、ルークが嬉しそうに追いついてきた。
 「そうでなくてもシノブのような美貌を持った者は早死にすると昔からの言 い伝えがあるというのに。あー、なんだったか・・・び、美人薄弱」
 「誰が薄弱だ、こら。薄命だろ」
 むっつりとした声で笛吹は訂正すると、頭1つ高いところにあるルーク の顔に向かって左の掌を見せた。
 「俺は生命線が長いから長生きできる」
 「そんなことわからない。私の父方の祖父は生命線がはっきりく っきり長かったが、30歳の若さで非業の死を遂げたという」
 「ああそうですか」
 「何を荒んでいる。思春期はもう終わったのだろう」
 「・・・」
 トリスタン氏に思春期ネタで最近からかわれたばかりだった笛吹は、 一層不機嫌になり、黙ったまま早足でエレベーターのところまで歩いていった。
 「シノブ、落ち込んだのか?」
 エレベーターが来るのを待っていると、ルークが顔を覗き込んできた。
 「気にすることない。私はあそこに呼ばれたのは3度目なのだから」
 そういえば尋問員が、「またお前か」とルークに怒っていたなと笛吹は思い出した。
 「・・・1度目は何したんだ」
 「んん?知らないのか?結構派手にやったのだがな」

 その事件はルークが宿舎に着いた5日後、笛吹が到着する1日前に起こった。
 昼食後、ルークが廊下に設置してある自動販売機でレモンスカッシュを買っ ていると、二人組のカストル系ハーフが近寄ってきた。
 二人は、今自分たちは4人組グループと睨み合いの状態で、 人数的にはこちらが不利なので仲間になってもらえないだろうか、 というような趣旨のことを言ってきた。
 余談ではあるが、この敵対している4人グループとは、ブレイズと衝突 している例の4人組である。
 ルークはちょうど暇を持て余していたところで、別段断る理由もなく、 レモンスカッシュをおごると言われたこともあって、すぐにその話に乗った。
 「梅干を見ると唾液が出てくるというが、私はレモンスカッシュを 見るとよだれが出てくるほどレモンが好きだ」
 「誰もそんなこと訊いてない。話を続けて」
 「失敬。その後私たちは敵対しているグループから挑戦状を渡され、 良い機会だと指定された場所へ向かおうとした」

 指定された場所とは、毎日実戦トレーニングが行われている7階の多目的室だった。
 相手グループよりも先に着いて時間を持て余していたとき、 仲間のうちの一人、レネックという若者がルークの能力についてたずねた。
 「私は正直に『攻撃力・防御力など全てSクラス』と答えたのだが・・・」
 すると二人は大笑いして信じようとせず、Sクラスはどれくらいの強さな のかと馬鹿にしたように訊いてきたので、ルークはぬけぬけと、ここの部 屋の壁をキックだけで壊せるほどと答えた。
 ちなみに多目的室の部屋の壁は近代科学の結晶、ブレーカープレートシ リーズのα−1タイプで作られている。
 α−1タイプはシリーズの中では1番強度は低いものの、小型ミサイル をぶつけられても堪えることができるほどの硬さを誇る。
 このことは実戦トレーニングにはじめて参加する際、 教官から自慢気に全員が語られている。

 『んなことできるわけねーだろ!やってみろよ』
 『了解』
 そしてルークのキックが二人の動体視力をもってしても見えない スピードで繰り出され・・・。

 「壊したら警報が鳴って困ったのだよ」
 「な・・・生身でブレーカープレートを破壊したのか!?」
 驚愕に裏返る寸前の声を出した笛吹に、ルークは片眉を上げてにやり と笑ってみせたが、笑ったのか怒ったのかよくわからない表情である。
 「おかげで謹慎3日間の処分を受けた。決闘はお流れ。 給料から壁の修理費が引かれることになった」
 「ほかの二人は?」
 「警報が鳴るとすぐに私を放って逃げ出した。謹慎明けに仲間面して 近づいてきたところを叩きのめして、さらに1週間の謹慎処分を受けた」
 「ふぅん、それが2度目か。だからお前のこと見かけたことなかったんだな」

 納得がいったと笛吹が腕を組んだ時、エレベーターの到着を告げる電子音が 響き、中から見知った顔ぶれが現れた。
 「よう、笛吹!迎えに来たぜ!その分だと処分喰らったみたいだな」
 「面白そうに言うなよシェダル。自室で謹慎2日間だって」
 愉快そうに微笑む親友に、憮然とした表情で黒髪の青年は拗ねたように言った。
 それを聞き、リーが衝撃を受けたように目を見開く。
 「えぇっ!?なんでなんで!?笛吹さん悪いことしたの!?」
 「別に悪いことなんてしてないよ。隊長責任でね」
 「そんな、悪いのはこの白髪頭じゃないか!!」
 そう言い放ってブレイズは自分よりも頭5つ分くらい身長が高い ルークを指差した。
 言われたルークはむっとした表情になって、
 「これは白髪ではない。銀髪だ。人聞きの悪いことを言うな」
 「同じようなもんでしょ」
 「こんなに輝きを放っているではないか」
 「光の加減か、頭の油でも浮いてるんじゃないの?」
 「油は水より軽いが、宙に浮くほど軽くはない」
 「うわっ!典型的カストル系というか、それ以上の天然だよこの人!?」
 「はい、ちょっと待った!」
 不毛な口げんかに我慢が出来なくなった笛吹が、ついに口をはさんだ。
 「油が宙に浮こうがなんだろうがどうでもいいから、これ以上けんか してもめごとを起こさないで。いいね?」
 言い聞かせるような笛吹に、ブレイズはにっこり笑って「はーい」 と手を挙げたが、ルークは不本意そうに口をへの字に曲げる。
 「いや、油が宙に浮くのはどうでもいいこととして片付けてし まってはいけないと思うのだが」
 ルークを除く全員が盛大にため息をついた。
 「だからさ、別に僕は油が宙に浮くとか言ってないってば。 髪の毛洗ってないんじゃないのって言ったの!」
 呆れたように言うブレイズを、ルークは苛烈な光を目に宿して睨みつけた。
 「毎日洗っている!!」
 「いや、ただの口げんかなんだから、別に本気で疑って言ったわけじゃなくて・・・」
 「あはははは!こいつら面白いな!」
 再び再燃焼し始めた口げんかを眺めてシェダルはのんきに 大笑いしているが、笛吹は先が思いやられたのか、こめかみに 手をやると深くため息をもう1つついたのだった。



 次の日の4月11日。
 カール・トリスタン氏の秘書、アルカミルが自室謹慎中の笛吹の元を訪れた。
 「マスターは今、手が離せない仕事が入っているので私が代理で参りました」
 紅茶色の髪の青年アンドロイドはにっこり微笑むと、 抱えていたカバンから1冊の本を取り出した。
 「こちらを御渡しするように申し付けられたのですが・・・」
 笛吹が受け取った分厚い本のタイトルは『図解・宇宙なんでも学入門』である。
 「勉強なさるのですか、ミスター・笛吹?」
 「・・・そういえばこんなものをくれると言っていたような言 ってなかったような良く覚えていないんだけど・・・」
 怪訝そうな表情を浮かべながら、笛吹は本を脇に抱えた。
 「せっかく来てもらったことだし、良かったらお茶でも淹れるけど」
 「大変嬉しいのですが、これからすぐに取り掛からなければならない仕事があるので・・・」
 「あ、気が付かなくてごめん。忙しい中わざわざ来てくれたんだな・・ ・秘書ってこんな雑用もするのか?」
 「雑用が仕事ですよ」
 人のいい笑みを浮かべてアルカミルが去ったあと、笛吹は飲みかけ ていたウーロン茶を一気に飲み干すと、本を持ってソファーに身体を沈めた。
 
 時は遡って4月7日の夜、食堂のオバサンからお勧めの店を 教えてもらい、たまたま都合の悪かったシェダルを置いて一人でオフィス 街の片隅にある小さなレストランに出かけた笛吹は、そこでばったり トリスタン氏と鉢合わせてしまった。
 「今日みたいに会社に泊まりこむときはいつも、この店を利用しているんです」
 珍しく一人のトリスタン氏は、当然のごとく笛吹を同じテーブルに呼び、 笛吹は渋々といった表情で席についた。
 「どうです、1杯」
 「いや、俺はあまり酒とか飲んだことないんで・・・というかそれ以前に未成年ですし」
 「ハハハ、堅いことを言わない言わない!」
 さわやかに笑うと、トリスタン氏は有無を言わさずワインを注文し、 笛吹に笑顔で強制して飲ませた。
 「どうですかお味は?オベロン・ダリュオネス産13年もの赤ワインです」
 「あははははー!おいしいよ、これ!」
 普段の10倍以上のテンションで明るく話す笛吹の頬は、 手にしている赤ワインのような色をしていた。
 滅多にお目にかかれない光景である。
 完璧にハイになった笛吹は怒涛の勢いで色々なことを語り始め、 トリスタン氏はさわやかに笑いつつ笛吹のグラスにワインを注ぎつづけた。

 会話は弾み、蘭の栽培など日常の些細なことから、いつしか話題は宇宙へと変わっていった。
 植物にしか興味のない笛吹は、宇宙については学校で習った基礎程度のことしか知らない。
 「今は宇宙進出の時代です。もっと知っておいたほうが何か と役に立ちますよ。あ、初心者にも分かりやすくてお勧 めの本がありますけど、いりませんか?」
 笛吹はトリスタン氏をうつろな瞳で睨み、フンと鼻を鳴らすと空のグラスを差し出した。
 「俺はね、宇宙開発とかそういう類には全く興味がないんだ。 地球人が進出してきたせいで俺達みたいな少数派が生まれる。 挙句の果てにエイリアン殺しをさせようとする。そもそも俺は エイリアンという呼び方自体気に入らないんだ。地球人本位の考え方がありあ りと出ているよね。61α人からしてみれば、地球人はエイリアンにあたるってば」
 「全くおっしゃるとおりです」
 笛吹のグラスにトリスタン氏は並々とワインを注いだ。
 「笛吹さんは地球人がお嫌いですか?」
 ワインを一口あおると、笛吹はトリスタン氏をひたと見据えて口だけ笑った。
 「ああ、あんたみたいなのが多いからな」
 「あ、私のことひょっとしてお嫌いで?」
 「ひょっとしなくてもお嫌い」
 「ははは!嫌われてしまいましたか!」
 全くこたえていない様子で、トリスタン氏はさわやかに笑う。
 「確かにかなり強引な手でスカウトしましたしね。でもそれだけあなたの 能力に興味があったんです。外見もかなり目を惹きましたが」
 「能力ね・・・かなり前から事件の犯人、俺だと見当つけてたんだろ?」
 「はい、もちろん」
 「ハハ、やっぱりね…誰も捕まえにこないからおかしいと思ってたんだ、 ちょっと考えたらすぐ気付きそうなものなのに」
 「まぁ、当時<ヴァヴェル>が活発に破壊活動を起こしてましたし、 警察はそちらに完全に意識が行ってましたからね」
 「…警察はまだ知らないのか?知っていて黙っているのか?」
 「知らないと思います。たとえ知っていても手出しできませんよ」
 「知っているのあんただけ?」
 「あと私のごく少数の信頼できる部下と。緘口令を出したので大丈夫ですよ」
 「緘口令って…まだ若いのにもう部長なんて早すぎだし…、あんたなんなんだ?」
 「言ってなかったかな?メディフの社長の養子なんです。しかも才能がある、ね」
 「ふーん、そっか」
 訊いておきながら興味なさそうに返事を返すと、笛吹は頬杖をついて、 テーブルに置いたグラスを見つめた。
 「我ながらあまり使い勝手がいい能力とは思えないんだけどね。 広範囲を無差別に攻撃するわけだから、破壊したくない建物とか あるところじゃ使えない」  ワインに波紋が生じ、音もなくグラスは宙に浮いた。
 かすかに紫に輝く笛吹の瞳を見て、開発環境部部長は目を少し細めた。
 「破壊したくない物にバリアを張ることは・・・?」
 「<意思のバリア>は事象の地平線の展開と、俺自身にしか造った ことがないからよくわからない。でも出来ないという感覚があるね」
 「となるとやはり無差別にしか出来ないとうわけか・・・」
 トリスタン氏は膝を組み、椅子に背中を預けるように座りなおすと、 さわやかに微笑んだ。
 「でも、地球を丸ごと1つ消して、地球人を大量虐殺するには十分じゃないですか」
 宙に浮いていたグラスが不意に落下し、テーブルにぶつかる寸前で また宙に静止した。
 落下の際グラスからこぼれたワインも宙に浮いている。
 高価なグラスを割らずに済んだことに笛吹はほっと一息つくと、 面白そうにグラスを見やっているトリスタン氏に呆れたような口調で語りかけた。
 「さわやかで、いかにも善人ですみたいな顔してそういうこと 言うから信用できないんだ、あんたは」
 「そうですか?」
 トリスタン氏は口に手をやると、くつくつと笑った。
 「では、宇宙征服とか興味ありませんか?」
 「またまた。面白そうだけど、征服した後どうするかってことが 問題だよね。はっきり言って面倒臭い。なに、あんた宇宙征服したいの?」
 「ははは、まさか。私の手に余ります」
さわやかに笑うトリスタンをちらりと見ながら、笛吹は不安定な動きを 見せるグラスに手をやると、宙に浮いたままのワインをグラスの中に誘い込んだ。
 「まぁ無理な話さ。俺みたいな面倒臭がり家の小心者が企むよう なことじゃない。あんたのような野心家が勝手にすればいいさ」
 そういうと笛吹は「トイレ」と言って席を立った。
 テーブルに残されたトリスタン氏は笛吹の背中を見送りながら、 最後のワインを一口で飲み干すと、さわやかに独り言を言った。
 「私が野心家、ね・・・」


 「というか、あまりあのときのこと覚えていないんだよな・・・ 気が付いたら自分の部屋だったし」
 どうも会話が弾んでいたような感じがぼんやりとする笛吹だが、 ちょうど暇を持て余していたことだし、と思い直して『図解・ 宇宙なんでも学入門』を開くと真剣に読み始めた。
 そして10分後、部屋に遊びに来たブレイズにその本 が中学生レベルであると教えられ、笛吹はムカッ!とすることになる。




→あとがき