第8章 DAYDREAM BELIEVER


V






   シェダルの飄々とした態度に騙されていた笛吹は、ようやく事 態の深刻さを理解したようだった。
 「・・・じゃ、じゃぁ俺たち、一体これからどうなるんだ・・・?」
 「さぁ」
 肩にまとわりつく髪を背中に払いながら、シェダルは首をかしげる。
 「すぐに元に戻れるか、しばらくしてから戻れるか、はたまた永遠にこ こにいなくちゃならないか・・・。肉体の死によってこの場から解き放たれ るわけでもないだろうしなぁ。ちなみに肉体は植物人間状態になっているはずだ」
 案外もう死んでいるかもしれないけどな・・・というセリフを、シェダルは 笛吹の顔を見て口の中で言うに留めた。
 笛吹は相変わらず無表情であったが、その落ち込みようは身にまとう雰囲気か らいとも簡単に読み取ることが出来るのである。
 シェダルは1つため息をつくと、裏手で笛吹の肩を軽く叩いた。
 「まぁただ手をこまねいているだけでも仕方ないし、色々オレなりに模索して みるつもりだからさ〜、そう情けない顔すんなって」
 「・・・別にそんな顔してないし」
 案の定、笛吹は強がった。
 暗いオーラを無理矢理消し去り(シェダルにはそう見えた)、柳の木のようにゆ らりと立っている親友をじっと見据える。
 「それより、模索って何をどうするんだ?」
 長い睫毛に縁取られた世にも美しい蒼い瞳を真っ向から受け止めながら、何故かシェダルは満 足げな笑みを浮かべ、人差し指を立てた。
 「あちこちつつくのさ」
 「つつく?」
 「そ。つつく」
 立てた指を動かして何かをつつくジェスチャーをするシェダルに、笛吹はほんの少 し片眉をひそめた。
 「ここから出る場所を捜すってことだよな」
 「さ〜すが!笛吹君は理解が早いねぇ」
 「ふざけている場合かよ。・・・で、文字通りつつくだけなのか?何か特別なつつき 方でもあるのか?」
 「特別といえば特別だなぁ」
 「どうやるんだ」
 特別と聞いて自分にできるだろうかと心配気な笛吹の顔を少しの間見つめてから、 シェダルは顎をぽりぽりとかいた。
 「・・・・・・ああ〜・・・、お前にゃ出来ないな」
 「え・・・」
 しょげる笛吹。
 「仕方ないわ。観念を捨て去ることに慣れていないから出来ないだろうなぁ・・・オレ がやるから安心しなよ」
 「・・・俺、なんだかものすごく役立たずっぽくないか」
 「そんなことがあってもいいんじゃない?オレにもたまにはいいカッコさせてくれや」
 「・・・あ〜、言っておくけどな、お前が役立たずだったことなんて今まで一度も無いからな」
 「ハハ、サンキューサンキュー」
 軽く笑うとシェダルは準備体操するかのように、やおらに屈伸運動を始めた。
 「しばらくつついて周ってみるから、笛吹はその辺で適当に遊んでいてくれ」
 「あ、遊ぶって・・・」
 「ははっ、探検ゴッコだよ。ほらその辺散策してこいや。植物の観察なり巨人の観察 なりすることはたくさんあるだろ。何かあったらオレの名前を呼べよ〜」
 シェダルは晴れやかに笑うと、戸惑う笛吹を尻目にグラウをかき分け、地面に指を つき、・・・・・・そのまま水の中に潜り込むかのように頭からするりと地面の中に消えてしまった。
 「シェッ、シェダル!?」
 いきなり土の中へ消えてしまった友人に笛吹は心底仰天した。
 「な、どうなってるんだ!?」
 慌ててシェダルが潜った地点をさすってみたが、手はつき抜けることなく湿った黒 い土を触るばかりである。
 少し土を掘っても、よく肥えた腐葉土が出てくるだけで、金髪の一筋すら見えない。
 「シェダル!シェダーール!?」
 半狂乱の笛吹。
 その傍らの地面からシェダルがぬっと顔を出した。
 「どうした〜?」
 「うわっ!?」
 黒髪の誰もが羨む美青年は、思わず声を裏返らせると尻餅をついた。
 友人の驚愕を知ってか、シェダルはわざと底意地の悪い笑みを浮かべるとのんびり言う。
 「なにかあった?」
 「お前がいきなり地面に消えたんだよ!!」
 握りこぶしで地面をダンッと殴る笛吹を「まーまー」となだめると、地面から首だ け生やしたシェダルはどこか遠いところを見るような眼をした。
 「宇宙にはまだ科学では説明できない未知の現象が数多く存在し我々は遭遇する都 度畏怖を感じながらも愚かにも自分たちのカテゴリにはまる近似したものを心の中で 列挙し結び付け安心感を得ようとするのが常・・・」
 「からかうな!」
 顔を真っ赤にした笛吹がシェダルの頭を軽くはたこうと手を上げたが、それより 早くシェダルは地面に沈み、そして違うところからまた頭をスーっと出し、全身を 出し、ついには宙にそのまま浮かび上がった。
 「お、お前サイコキネシス使えないんじゃ・・・!?」
 「あはは、ゴメンゴメン、これがつまり観念から解き放たれた状態ってことだよ、 わかったかい、う〜すい君!」
 金髪の青年は楽しそうに髪をかきあげると、宙を蹴ってとんぼ返りをし、そのまま 頭から地面にざんぶと飛び込んで姿を消した。


 例えば地面は固いという観念。
 それに囚われているがために、肉体から解き放たれているにも関わらず、笛吹はシ ェダルのように地面を通り抜けることが出来ない。
 シェダルが消えた後、しばらくの間観念を取り払うべく「地面は通り抜けられる、 通り抜けられるったら通り抜けられる・・・」と自己暗示じみた事を繰り返し、地面に潜 り込もうとしたが徒労に終わった。
 指先に触れる土はいつまでもしっとり冷たく変化がない。
 笛吹は努力すればたいていのことは実を結ぶ方だったが、こればかりは発展の見込 みを感じることは出来ず、なんとなく暗示にかかったような気がしたときでも、頭か ら地面に飛び込むことに躊躇を感じずにいられずにはいられなかった。
 
 仕方なく、笛吹は巨人を調べることにした。

 小高い丘の上に立っている笛吹は、かなり遠くのほうにいる巨人まで見ることが出来た。
 数は多すぎず、少なすぎず。
 遠目には個体差は全くないように見えるがどうだろう。
 お互いが接近しすぎて触れ合うことも無く、あちらこちらでゆらゆらと前傾姿勢気 味にグラウの草原を歩き回っている。
 現実世界での荒んだ雰囲気はひとかけらも無く、たゆとう空気は穏やかな春の朝のようだ。
 大地はよく肥え、グラウが生い茂り、飴で出来たような巨人が歩き、それらの上に 等しく日差しが降り注ぐ。
 初めて生で見る光景であるにも関わらず、それは今ではとてもしっくりしたものの ように笛吹の目に映り、違和感は微塵も感じることは無かった。
 現実世界の荒野の方が明らかに異常だった。

 これこそがアンバーの姿なのだ。
 そう、自然に思えるほど悠久の時を感じる光景が今、笛吹の目の前に広がっている。

 腰の高さまである黄金色の草をかき分け進みながら、笛吹は一番近くにいた巨人へ と近づいてみた。
 少し前にパフィオペディルムと共に巨人を見たときは、暗い谷底で照明弾を打ち上げ てのことであったし、パフィオペディルムがキレるわ自分は死にかけているわで余裕が 無い状態だったため、よく観察することが出来なかったのだが、あの時見た巨人と全く 同じものであることは間違いないように思われる。
 おそるおそる手を伸ばし、飴細工のような巨体に触れてみた。
 想像どおり冷たくすべすべしており、ガラスを撫でるかのような感触だった。
 ただこの感覚はこの世界において、笛吹の先入観から生じるものであるかもしれな いので、どこまで信用できるかは定かではないのだが。

 「やっぱりただの『もの』なのか・・・」
 なんにせよ触っても、叩いてもなんら反応を返さない物体に少し気が大きくなった 笛吹は、念動力を使ってふわりと宙に浮かび上がると、巨人の肩に見える部分に腰掛 け、頭のような出っ張り部分にしがみついた。
 「マンションの2階くらいの高さか・・・」
 周囲を眺め回してのんきなことを言う笛吹。
 巨人はやはり我関せずといった具合にのしりのしりと足を運ぶ。

 しばらく笛吹は足をぶらぶらさせながら、巨人を観察していた。
 スーリィから出来た巨大な動く石。
 Aランクの念動力やパフィオペディルムのSランクの怪力をもってしても、持ち上 げることが出来なかった。
 ラージスの調査班の報告によれば、空間転移でブレーカープレート製の檻に移動さ せると、途端にガラガラと崩れ、全く動かなくなったという。
 
 本当は空間転移を試してみたいところなのだが、成功したとしても結果は調査班の ものと同じだろうし、わかっているのに試みて、この巨人がただの石ころと変わり果 ててしまったら、おそらく自分はただの石に対して見当違いな後味の悪さ感じてしまう のだろうな、と笛吹は考えた。
 
 「眺めはどうだい?」
 突然シェダルの声がした。
 左下を見ると、シェダルが笛吹の乗っている巨人に並んで歩いていた。
 グラウを数本手に握り、それを楽しそうに振り回して、生えているグラウをばさっ ばさっと叩いてかき分けている。
 「早かったな。・・・つつき終わったのか?」
 「ちょっとばかし問題が発生してさ・・・今休憩中」
 「問題?」
 「ああ、あとでな。笛吹は何かわかったのか?」
 「今からちょっと試そうと思っていたんだ」
 「何を?」
 「こいつを持ち上げてみようかと」
 笛吹はそう言うと、巨人を蹴って友人の立つグラウの海へと降り立ち、双眸にエネ ルギーをこめる。
 そして目だけでなく全身を紫色に輝かせながら、遠ざかろうとする琥珀色の巨体周 辺に向けて意志を放つ。

 瞬間、巨人を中心に2メートルの空間の重力が無になる。
 「おい、笛吹・・・」
 「大丈夫だって」
 何故かシェダルは険しい顔で笛吹を止めようとしたが、巨人に精神集中している 笛吹にはそれがわからない。
 シェダルの声を無視すると、無重力フィールド目掛けて笛吹は念動力を繰り出し、 地面ごと巨人を持ち上げようとした。

 「見ろ、シェダル!」
 思わず声を上げる笛吹。
 彼の前には土ごと巨人が宙に浮かんでいる・・・・・・が、すぐにばらばらと分解してしまった。
 「・・・!」
 笛吹はあわてて能力を解いたが、地面にガラガラと音を立てて落下した大量の琥珀 色の石は、ぴくりとも動きを見せない。
 「あぁ・・・1度でも地面から切り離したら駄目なのか・・・?」
 やっぱり罪悪感にかられてしまった笛吹。
 ため息をつきながら傍らにたたずむ友人を振り返って意見を求めようとし、・・・珍 しく真顔のシェダルにビクッとした。
 「シェダル?」
 「・・・・・・さっきオレが言ってた問題だけどさ」
 シェダルは足元に転がるさっきまで巨人だった石のかけらを1つ手にとった。
 「オレはここが精神世界だと見当つけていたんだけど、それがどうやら大外れでさ 、つつくところなんか見当たらなかったのよな」
 「・・・じゃぁ、ここはなんなんだ?」
 友人が別に怒っているわけではないとわかって安心した笛吹は、無意識のうちに肩 にこめられていた力を抜くと、優雅な足取りでシェダルに近づいた。
 「現実世界なんじゃないかなぁ。そうとしか考えられない」
 琥珀色の石を弄びながら、シェダルは首をかしげた。
 「おそらくオレたちは精神だけ過去に飛ばされちまったんだ」
 「過去!?」
 「この星の様子から考えて・・・多分」
 シェダルは手に持った石を放り投げた。
 「しかもこういう具合に干渉できる、な」

 石は放物線を描いて、小山を作っている仲間の石にぶつかり、かつんとさみしい乾 いた音を立てて転がった。


 
 つまるところ精神世界であったなら、シェダルが《世界の壁》をつついて穴を開け ることができたかもしれないのだが、現実世界であるがためにそれすらできず、全く の八方塞がり状態である・・・ということらしい。
 「じゃぁ、俺たちはどこからここに入ってきたんだ?」
 「竜巻に巻き込まれて空高く舞い上げられて、断崖絶壁に囲まれた孤島にたどり着 いた・・・みたいなもんさ。竜巻はどうやって起きたとか聞くなよ〜。オレも全部わか ってるってわけじゃないんだからさ」
 「で、そんな状況にありながら、お前はなんでそうのほほんとしてられるんだ」
 「慌てたどころでどうにもならないだろーが。それとも泣き叫んで欲しい?・・・うっ わーーー!!どうしようどうしようどうしたらいいんだ笛吹!?ゲームもできねーよ !!テレビも風呂も女の子もなんにもねー!グラウばっかだ!ッギャーー!」
 「ら、らしくね〜・・・」
 状況は想像よりも深刻なのだろうが、始めから話があまりにも抽象的過ぎていまい ち正確につかめないことと、なによりも、頼みのシェダルがいつも通り飄々としてい るので、笛吹はそれほど焦りも絶望も感じないでいることができた。

 もし肉体ごと過去に飛ばされていたなら、まず食料の心配をするところだったのだ が、運良くというべきか精神だけだったので、空腹を感じることもなく食料探しの必要もない。
 とにかくすることがない。
 することはないが、日は昇り、そして沈む。
 シェダルはそうでもないらしいが、笛吹は何もせずにぼーっとしていることに耐え られない性分だった。
 打開策は考えつかないものの、「何とかなるだろ」というシェダルの言葉を励みに、 笛吹は前向きに現在の状況を利用することにした。
 まずは何を置いてもグラウの観察である。
 元の世界では1本だけしか入手できなかったグラウも、ここではうんざりするほど 生えている。
 始めの3日間ほどは、ひたすら研究者魂を燃やして調査に力を注いでいた笛吹だが 、調べるも何もグラウはすでに調べ尽くされている植物なので特に目新しい発見もない。
 顕微鏡などの器具も手元にないので、ただ徒に葉のつき方や根の生え方などを眺め るだけだったのだが、それでも3日も飽きずに続けたのは、さすが自他認める植物オ タクといったところなのだろうか。
 そのうち調べるネタが尽きたのか飽きたのか、今度は重力制御を使った新しい技の 開発に力を注ぎ始めた。
 上からの加圧攻撃と、高密度の重力場を作ることでしかダメージを与えられない のでは、念動力に負けると考えたらしく、「打倒サイコキネシス」を掲げながら岩に 向かって色々試している。
 超重力場を創った際、力の入れ加減を誤り失敗したことや、パフィオペディルム に弱いと馬鹿にされたことが火薬となっているのは間違いないだろう。
 シェダルはというと、練習に励む友人の姿を眺めたり、巨人に触れて何か調べた り、笛吹の新技の名前に口を挟んでみたりと、のんびり日々を送っていた。
 それでも時々姿を消しているところを見ると、自力での脱出を諦めたわけではないらしい。

 そんなこんなで、ここに漂着してから空に輝くオレンジ色の天体が7回沈み、7 回昇ったときのことである。

 「コントロールはパーフェクトと言っても過言じゃないな」
 粉々に打ち砕いた巨岩を前にうっそりと佇んでいた笛吹が、少し得意げに後ろを 振り返ると、シェダルが眉間にしわを寄せてうつむいているのが見えた。
 「どうした・・・!?」
 慌てて駆け寄り白い顔を覗き込むと、酷く苦しげな表情をしている。
 「シェダル、大丈夫か!?」
 「・・・・・・動けない・・・・・・」
 うめくようにシェダルが言った。
 歯を食いしばり、額に汗まで浮かべている。
 見たことのない友人の表情に、笛吹は鳩尾をつかまれるような嫌な不安を覚えた。
 「どこか痛いのか!?」
 病気だったらどうしよう。
 精神体であることを忘れて見当違いな心配をする笛吹にシェダルが返した返事は、 全く想像外のものであった。

 「・・・・・・誰かが、見ている・・・・・・」

 呟かれた言葉に、笛吹はおもわず顔を上げて辺りを見回したが、周囲には巨人の影 すら見当たらない。
 「どこからだ・・・?」
 「・・・・・・こんな気味の悪い感覚、生まれて初めてだ」
 「シェダル?」
 笛吹はシェダルの顔を両手で挟んで自分と向かい合わせたが、ビリジアンの瞳は蒼 い瞳を捉えることなく、どこか遠いところを凝視している。
 その様子から、シェダルがテレパスを行っているのだと笛吹は解釈したが、実はそ うではなく、このときシェダルの能力は何者かによって圧倒され、動かせずにいたのである。
 「大丈夫か?」
 いつもならシェダルが能力を解放している時はなるべく妨げないように大人しくし ている笛吹だが、このときばかりはシェダルが無理をしていることがはっきりわかっ たので、なんとかこちらに意識を向けさせようと声をかけ続けた。
 「無理するなシェダル」
 しかしシェダルの耳には入らない。
 「どこなんだ・・・・・・」
 「シェダル」
 「誰だコレ・・・絶対に普通じゃない・・・・・・」
 「おい」
 「・・・・・・」
 シェダルは目を閉じた。
 そして次に開いた時には、しっかりと何かを見据えていた。
 
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・来る!」

 シェダルが顔を上げて笛吹の手を握り締めた瞬間、周りの風景が突然溶けて消えた。
 そして渦に巻き込まれたときと同じ酩酊感が二人を襲う。
 慣れていなかったころの空間転移する際感じた感覚に似ている、となんとなく笛吹は思った。
 立っているのか座っているのか、自分が今どのような姿勢でいるのか全くわけのわ からないが、手に感じる友人の温もりが、小さい頃父親の手に感じた心強さを思い起こさせた。
 
 今回のトリップは時間にしてものの数秒だっただろう。

 気がつくと笛吹とシェダルは、先ほどと全く変わらない場所に立っているようだった。
 ただ、昼だったのが夜になっている。
 星明りに照らされたグラウが、昼間の燦然たる輝きとはうって変わって、寒々し い暗闇の中で静かにきらめいるのが見えた。
 「なんだったんだ今のは」
 「誰かが干渉してきやがった・・・!」
 眩暈をなだめながらぼやく笛吹の側では、引き続きシェダルが緊張していた。
 「オレたちをわざと時間移動させたんだよ。・・・・・・あぁ〜、まだ見てやがるし・・・・・・」
 「干渉ってなんでまた・・・」
 「・・・・・・」
 笛吹の問いかけに答えず、シェダルはふと夜空を見上げた。
 「シェダル・・・?こ、今度は何だ?」
 状況の変化についていくのに必死の笛吹。
 わけがわからないが、シェダルに倣って上を見た。

 満天の星空だった。
 キラキラと輝く星粒がまんべんなく散りばめられ・・・・・・否、笛吹の頭上に何故か コイン大ほどの黒々と星のない空間が広がっている。
 「?」
 その黒い空間は急速に広がり、コインからテニスボール大、ソフトボール大へと大 きさを転じ、ついにドッチボールほどの大きさにまでなった時、ようやく何かが落ち てきているのだと気付いた笛吹が慌ててシェダルを突き飛ばし、自分も安全地帯へと 身を投げ出した。
 数瞬後、後ろでもの凄い激突音と共に土煙が巻き上がった。

 「なんなんだ一体・・・!」
 上体を起こした笛吹の側に、シェダルが宙に浮きながらふらふらと漂ってきた。
 「いやさ、オレたちは生身じゃないんだから別に危なくはなかったんだぞ?」
 「・・・どうせ俺は固定観念から脱却できない未熟ものだよ」
 「はいはいはいはいは〜い、そうだね〜、頑張ろうね〜」
 小さく拗ねる笛吹を適当にあしらいながら、シェダルは落ちてきた丸い物体に近づく。
 「笛吹、これなんだと思う?」 
 「さぁ・・・宇宙から飛来したとした考えられないけど、隕石にしては真ん丸すぎるし 、表面も石っぽく見えないな」
 物体にさらに近づいてよく見ようとする笛吹。
 その肩をシェダルが引き止めるようにやおら掴んだ。

 「・・・・・・おい、これ生きてるぞ・・・」

 笛吹はシェダルと視線を交わし、そしてもう一度物体に目を向けると、数歩後ろに退いた。
 「い、生きてるのか?」
 「ていうか、コレ・・・・・・」

 固唾を飲んで見守る二人の前で丸い物体は突然小さく震えると、楕円になったり いびつな形に歪んだりと変形し始め、ついにはヘチマのような形になった。
 
 「こ、これって・・・・・・」
 笛吹が喉をごくりと鳴らした。

 ヘチマのどてっ腹に穴があき、そこには鋭い牙がぎっしりと生え揃っているのが見える。

 「あいつらじゃないか・・・!」

 赤い4つの目を光らせると、ヘチマ状の食欲の権化は硬質なものをこすり合わせ たような耳障りな叫び声をあげた。