VENUS AS A BOY





 地球人が音頭を取って築き上げたエイトコミューンの筆頭に挙げられるのは61α人とカスト ル人だ。
 これら2種族と地球人はいわゆるヒューマノイドと呼ばれ、容姿・生活形態ともに似ている ことから異種交配もすんなり進んだとかで、エイリアンハーフはこの3種間の者が殆ど。
 61α人は知能、能力共に地球人を凌駕している美貌軍団だけど、感情と闘争本能が著しく欠 如しているらしくて、宇宙の覇者になろうとか壮大な野望を夢見たりすることはなく、陰謀・策 略が得意な地球人の「よき友人」として、アンドロイドよりも機械らしくエイトコミューンの発 展に尽くしている。
 映像で何度か見たことがあるけど、よくできたマネキンって感じの方々だ。
 綺麗なんだけど、仮面を被っているかのようにひたすら無表情でちょっと怖い。

 それとは逆なのがカストル人で、こちらは感情と闘争本能の塊。
 卓越した運動能力は「最強の戦闘種族」の名を冠するに値し、屈強な地球人男性10人がかり でも一人のカストル人を倒すことはできないだろうとかなんとか。
 以前地球人限定の格闘試合に、高額の賞金目当てのカストル人が地球人だと偽って参加して 捕まった事件があったっけ。
 なんでバレたかというと、全試合全て開始10秒以内に対戦者をノックアウトしたから。
 手加減して試合するとかすれば、発覚はもうちょっと遅かっただろうに、そこらへんに頭が 回らなかったところがいかにもカストル人らしくてちゃんちゃら笑える。

 さて、問題なのはエイリアンハーフ。
 カストル人と61α人との混血は、双方の能力を中途半端に受け継ぎどちらも弱まることが多 いのだけれど、地球人とその他2種間との子供には、何故か能力を強く引き継ぐ者が多かった。
 例えばカストル人と何のとりえもない地球人との混血児は、純血のカストル人よりも何故か 戦闘能力に長けているので、紛争の絶えないカストルにおいては彼らは歓迎すべき存在として 扱われる。
 しかし地球管轄下の星においては、やたら暴力・犯罪事件を起こす凶悪な種としての悪名が 高く、はっきり言って印象はメチャクチャ悪い。
 また、特殊能力を有する61α系のハーフもうんざりするほど感情に乏しくて、なんだか暗く て無表情で、かと思えばいきなり能力を暴走させ周囲に甚大な被害を与えてしまったりする奴 が多いとかで、こちらもやっぱり印象はあまりよくない。

 オレは61α系ハーフを名乗ることを選んだ。
 外見的には全身筋肉なカストル人よりも、繊細な61α系にはるかに近かったから。
 それでもハーフに対する偏見からオレは逃れることができず、度々転校を迫られることとな った。
 特に、オレはとびっきり偏見・嫌悪の対象となるような能力を持っている。
 さっきからのオレの言動を見てわかるように、オレはテレパシストで、人の心を読み、精神 で会話することができるんだ。
 テレパスは便利に思われがちだけど、地球人に囲まれた状況では全くそんなことはない。
 役に立ったためしなど殆ど無く、むしろ余計なダメージを精神に受けることのほうが多いく らい。
 心を読むような真似だって、地球人特有の煩雑な精神に溺れそうになって気持ち悪いから好 き好んでしたりなんかしない。
 しかしテレパシストに縁の無い地球人はそういうことを全くわからないで、心を読まれるこ とをとても嫌がってオレのことをただひたすら遠ざけようとする。
 今まで転校を繰り返してきたのは、そこから起こるいじめ・・・というか悪意によって受ける ダメージに原因があった。
 テレパシストであることを隠して溶け込もうとするのだけれど、結局ボロが出ちゃうんだな。
 他人がオレのことを無視しようが、悪く言おうが別にかまわないけれど、オレの能力はオレ の意志に反して勝手に動き回り、わざわざ悪意を拾ってオレに届けようとする。
 ネズミの死骸をわざわざ拾って飼い主に見せつけるネコのようだ。
 欲しいかい?こんな能力。
 
 もし、サイコキネシスのような攻撃として通用する能力をオレが有していたなら。
 地球人と変わらない視覚・聴覚を持っていたなら。
 本当に61α人と地球人のハーフだったなら。
 オレはしょっちゅうそんなことを考える。

 もし、サイコキネシスを使えたなら真っ先に何をしようか。
 まず教室の窓ガラスを前から順番に割ってみようか・・・・・・オレはその光景を思い浮かべてみ た。
 内側に向けても面白そうだけど、外側に向けて割った方がガラスの破片がもっと日の光を受 けて派手に散るだろう。
 それらはキラキラしながら宙に投げ出され、地面に深々と突き刺さるにちがいない。
 下に花壇があれば完璧だな。
 花についての知識はそれほどもっていないから、何か植わっていればいいことにしよう。
 茶色と緑色と、あともう一色。
 赤でもピンクでも黄色でも・・・地味でない色以外なら何でもよくて。
 生い茂る草花の上に降りかかる様を『自身の目』で見て、オレはおそらく『美しい』と感じ るんだろう。

 「・・・・・・ンズ・・・セイラン・ディケンズ!」
 「・・・はい」
 
 空想を遮られ、オレは仕方なく視聴覚伝達器が声を拾った方角に焦点を合わせた。
 教壇の上から眼鏡をかけた教師がこちらを睨んでいるのが見える。
 教室中の人間も、窓際の一番後ろの席に座るオレのことを興味深げに振り返っていた。
 「窓の外の景色に見惚れていたのかね、ディケンズ?ずいぶん余裕じゃないか、さすが61 α人の血をひくだけのことはあるな」
 嫌味ったらしく男性教師は言うと、教室前面の巨大スクリーンに映し出された数式を解くよ うオレに命じた。
 ・・・いつのまにやら1時限目の授業に突入していたらしい。
 オレの机上のパソコン画面はホームルームの時のままで、今日の時間割と 臨時ニュース・・・これはオレのことだな・・・それと学食情報が映し出されている。
 慌てて1時限目の数学をクリックすると、例の数式が画面いっぱいに出てきた。
 ・・・・・・もちろんオレは頭のいい61α人の血は混じっていないので、答えなんて全然さっぱ りだ。
 隣の席に人がいれば、答えの耳打ちなど学生ならではの助け船を期待することができたのだ けれど、残念ながら右隣は欠席なのか空席だった。
 孤立無援、お手上げの状態ってやつで。
 転校初日からついてない。
 

 :::


 次の休み時間、オレの机の周りに興味津々と言った態で一人、二人と人が集まってきた。
 ちょっとだけど、ビックリした。
 たいていの人間はエイリアンハーフというだけで気味悪がって近づきもしないのが普通で、 転校生といえどかまってくるのは、教師に世話係を命じられたクラス委員か(教師ともども オレを無視して何一つ教えてくれなかった学校もあったっけ)、ヤニ臭い不良グループ だけだったから。
 そんなわけで初めての経験に何か裏があるんじゃないかと疑いつつ、 のんきに自己紹介をはじめた学生達に適当に相槌を打ちながら眺め回した。
 心を読むことは簡単で、裏があるならすぐわかる。
 でも今、それはしたくなかった。
 対一人ならともかく、これだけの人数を前に能力を解放したなら、精神が窒息してしまう 恐れがあるからで・・・・・・別に人の心を読んじゃいけないなんて善の心を発動させたわけじゃぁない。
 にこにこ微笑みながら大人しく自己紹介を聞いている転校生が そんなことを考えているとは露知らず、人の良さそうな面をした同級生達は 親指を立てて「ヨロシク!」とか言っている。
 オレにしてみれば胡散臭いほどフレンドリー。
 まぁいきなりゴミを投げつけられるよりはずっとマシだけど。

 「ダリアン先生の授業でいきなりぼーっとするなんてたいしたもんだよ、絶対目ぇつけられ たな」

 これはオレの前の席の男子、ノスの第一声。

 「そんなに怖いヤツなの?」

 話に食いついたオレに、ノスは待ってましたとばかりに鼻を膨らます。

 「すんげー性格悪くて嫌味ったらしくてねちっこいの」
 「そうそう!ノスなんてテストで一度赤点とって以来、ことあるごとに嫌味言われてるも んねー」

 オレの右に立ったセミロングの赤毛の女子が、からかうような口調でノスにつっかかる。  確かこの子は級長の・・・。

 「ああ、さっき先生から紹介があったけど、もう一度、ね!私はアステリエ・ぺシェール !このクラスの級長よ。みんなからはアスティって呼ばれているわ」

 はきはきした口調で話すアスティはしっかり者のお姉さんといった感じだ。
 燃えるような赤毛との相乗効果により、体からエネルギーが迸っているようなイメージ を受ける。
 顔の造作もいいし、きっともてるんだろうなぁとか思いつつ会釈した。

 「僕のこともセイランって呼んでくれていいよ、よろしくね」
 「よろしくセイラン、なんでも訊いてね」

 にっこり微笑むアスティ。
 その後ろからいつの間にやらわんさか集まった他の生徒達が 、笑いながらブーイングし始める。

 「おいおい、転校生を独り占めにするなよな〜級長」
 「私にも自己紹介させなさいよ〜」
 「そうよ、いくらセイラン君が可愛いからって独占するのは禁止よ」
 「級長は面食いだからなぁ!」
 「言ったわねー!こいつー!」
 「アハハハハ!」

 ・・・・・・なんだかオレをそっちのけで安っぽい友情ドラマのワンシーンみたいな光景が繰 り広げられ始められてるんだけど・・・胡散臭いことこの上ない。
 ま、裏があるかもしれないとはいえ、 なんとかクラスに溶け込むきっかけを得ることはできたみたいだ。
 欲を言えば、精神に負担がかかるからはっきり言ってあまり人付き合いはしたくないんだけどね。
 だがしかし、様々な情報を得るためにも、頑張って彼らと仲良くならなくてはならない。
 こんなことを言うと、嫌な奴と思う人もいるだろうけど、オレも色々必死なわけで。

 実は今も多数の思念に囲まれて、かなり頭が苦しい。
 地球人の思考はオレからしてみれば、ひどく煩雑でうるさく、もわもわとまとわりつい て息苦しいことこの上なかったりする。
 精神が息苦しがると、身体にも不調をきたすので要注意。
 だからオレは、すぐにあふれ出ようとする能力を常に意識して押さえ込んでいなければ ならない。
 数年前から特に能力の手綱が取りづらい状態が続いているのだけれど、オレを研究材料 にしている白衣のおっさんたちによればこれは一時的なもので、あと数年したら終わるか もしれない・・・らしい。
 かもしれないってなんだよって感じだが、オレみたいなケースは他にないらしいので、 オレがデーター提供してやらないといけないのだ。
 まぁ提供しなくちゃならない義務なんてオレにはないのだけれどね・・・。
 
 「・・・ラン君・・・ねぇ、セイラン君ってば」
 「あ、・・・・・・ごめん、何?」
 「もう、さっきから呼んでるのに、またぼーっとしちゃって」

 首をかしげるアスティ。
 ・・・そうだった、オレの名前はセイランだった。

 「ごめんね、どうも機械の調子が悪いみたいなんだ」

 すっきりはっきり鮮明な映像と音を届けてくれている感度良好な視聴覚伝達器に責任を 押し付けて、オレは他人から儚げに見える笑みを浮かべた。
 色素の薄い金髪と白い肌、さっぱりとした容姿に平均よりもかなり低い身長と貧弱な体 格から、オレは儚げという表現が一番しっくりくるらしい。

 「そうだったの、大変ね・・・そういえばこれかなり古いタイプよね。新型と買い換えたら?」

 余計なお世話だ。

 「ううん、小さい頃から使ってるから愛着があって、どうしても手放せないんだ」

 にっこり笑って見せると、周囲から『可愛い〜!』という心の声が浴びせられるのがわ かった。
 良い第一印象さえ植え付けておけば、後々ちょっとしたことで思わぬ援護を期待でき るんだよな・・・多分。
 エイリアンハーフに対する偏見も薄そうだし、この学校・・・・・・ゾフィエル・ハイスク ールでは今までよりは長くやっていけるかもしれない。


 :::


 昼休み、ノスたちのグループに一緒に食事をしようと誘われた。
 どこの学校でもハーフってだけで毛嫌いされたので、昼になるとたいてい人気 の無いところを見つけては、一人で家から持参の弁当を食べていた。
 だから同級生と一緒にランチなんてほんと久々。
 安堵を感じつつも正直なところ、ちょっとうざかった。
 彼らの好意はありがたいけど、教室に満ちた思考にすでに窒息しかけのオレにとって、 一人の時間というのは大切な息抜きタイムであったから。
 頭の中は淀んだ空気をたくさん吸い込みすぎて光化学スモッグ警報・・・まではいかない ものの注意報が発令されている状態。
 でもそんなことが言えるはずも無く、オレは人でごった返しになっている食堂で昼飯を 食べることになった。

 ・・・・・・はっきり言って予想以上の『思考』の混雑ぶり。
 この感覚をどう説明したら伝えることができるだろう。
 オレンジや紫、黄緑に青など様々な色に変化するねっとりした海の中で、うるさくがな りたてる電気クラゲと毒クラゲ数百匹に囲まれて身動きがとれない、息もしづらい・・・そ んな表現が一番近いかな。
 しかも彼らはオレのことをひどく意識していた。
 能力を解放すれば間違いなくオレの精神はしっちゃかめっちゃかにかき回されるだろう から、何故意識しているかを読み取ることは出来ないものの、おそらくオレが転校生で 、しかもエイリアンハーフであることに興味を持っているのだろう。
 おかげでオレに向けてクラゲの手足が矢のように次々と飛んでくるので、それらを必死 にガードしなくてはならなかった。
 悪意が無いだけ全然マシだけど、食堂を飛び交う情報・感情の多さに、席についてしば らくすると眩暈がしてきた。
 お袋に弁当をせっかく作ってもらったけど、どうも全部食べれそうに無い。

 「セイランはどんな特殊能力持っているんだ?」

 オレの状態に全く気付かずに、向かいに座ってラーメンをすすっていたノスの友人・・・ ええと誰だったっけ・・・そうそう、デュランが嫌な質問をかけてきた。
 転校にあわせて新しく買った水色の四角い弁当箱をじっと見つめたまま箸を止めていた オレは、周囲からの好奇の視線を受けて眩暈をなだめながら顔を上げた。
 わかる。
 みんな訊きたくてうずうずしていたんだ。
 ここは慎重に答えなくてはならない。

 「能力?僕、残念ながら何も使えないんだ」
 「えっ!?ハーフでも使えないなんてことあるんだ!!」
 「61α人といったら念動力に空間転移だよなぁ・・・ちっとも使えないのか?」
 
 驚きの声を上げるノスとデュラン、その他2名にオレはほんのり寂しげな笑みを返す。

 「念動力なら少しだけど持っていることは持っているんだ。でも僕、身体が弱くて・・・・ ・・あれを使うと負担がかかるから、医者に使うなと止められている」
 「へェ・・・大変だなぁ・・・・・・」

 ノスの同情の声と同時に、「あちゃー、サイコキネシス見せてもらいたかったのに・・・!」と いう心の声がオレの頭に響いた。
 どっちも同じくらいの音量で。
 まぁそんなもんだろう。
 
 「61α人系のハーフって身体が弱いものなのか?」
 「なんか外見的に弱そうだもんなぁ」
 「そういやウスイもずっと学校休んでるよな」
 「ウスイのは病気じゃないだろ」

 ウスイ・・・?
 話の流れからしてもう一人のエイリアンハーフのことだな。

 「ウスイって誰?エイリアンハーフ?」
 「あ!セイランは知らないんだっけ!!」

 オレが口に出して聞くや否や、どっと頭の中にノスたちのもつ情報が押し寄せてきた けど、そんなこと知る由も無くノスたちは待ってましたとばかりに話し始めた。
 いやはや凄い凄い。
 聞けば聞くほど冗談みたいな存在で。
 なんでもウスイは61α系のハーフで、頭がよくスポーツ万能で念動力を持ち、そして 何よりとてもとてもとてもとてもとーーーーーーーっても美しい男だとか。
 全校生徒のアイドルでありスターであり、ファンクラブはもちろん、ウスイを神とし て崇める宗教まであるとか。
 
 「宗教?」
 「そう、宗教があるんだよ、ウスイは何か神の生まれ変わりだとかなんとかで、最有力 候補はなんだったかな・・・ミ・・・ミクロ・・・えーと、ミクロボサツ?とかいう美しい神様だ ってさ。崇め奉ればずーーーーっと未来に天国に行かせてもらえるんらしいぞ。1−D のアランって奴が教祖だぜ。」
 「・・・・・・冗談だよね・・・?」

 Dというと、オレはCだから隣のクラスだな。
 そんなキワな奴が近くにいたなんて・・・・・・思考に飲まれでもしたら大変だから、あま り近づかないことにしよう。
 
 「マジも大マジ。まぁウスイを見たらおもわず本当かな〜って思っちゃうな。信者けっ こう多いぞ。全校生徒の3割は入っているらしい。ちなみにファンクラブは我が校の女 子生徒全員が会員、さらに教職員の一部、近隣の小・中・高校にまで会員がいるときた もんだ!!俺、女の子達から隠し撮り写真とって〜って頼まれまくりよ!?セイランも そのうち頼まれまくりだぜ?」
 「は・・・?」
 
 マヌケな声を出したオレに、ノスが思い出したように言った。

 「ああ、ウスイは俺の斜め後ろの席、セイランの隣なんだ、空いてただろ?」

 なんだって?

 「ウスイはあの容姿だから、前の方に座ったら先生も授業にならないし生徒も視界に入 って授業に集中できないんだ。だから一番後ろの席なんだぜ。セイランもそのふわふわ 浮いている機械があるから、後ろの生徒の邪魔になるだろうって一番後ろの席。良かっ たな、ウスイの隣なんて全校生徒の羨望の的だぜ!?」

 ・・・・・・オレは気分が悪くなった。
 つまるところ、ウスイとかいうアイドル的存在の印象が強烈なほどいい(?)ため、同 じくエイリアンハーフなオレの印象も悪くなかったというわけで。
 それは良しとして、オレは別に羨望の的になど決してなりたくなかった。
 そんなわけのわからん感情を全校生徒から無駄にぶつけられまくったら、ただでさえ 窒息しかかって気分悪いのに本気で絶体絶命だ。冗談じゃない。

 「そんな凄い人が隣の席だなんてびびっちゃうなぁ。ぼくみたいなとりえのない奴は 友人になんてなれないだろうね」
 
 曖昧な表情を浮かべて、オレは周囲に期待をもつなと牽制した。
 が、デュランからよくわからない言葉が返ってくる。

 「大丈夫、そんなの気にすること無いよ、ウスイはそういう感じじゃないから。それに ずっと学校休んでいるしな」
 
 ・・・・・・そういう感じじゃないとはどういう感じのことを指しているのか、本当なら テレパスを使って正確に把握したいところだけど、現状況ではなるべく使用したくな かったので、首をかしげて説明を促すジェスチャーをした。
 それに学校をずっと休んでいるとはどういうことだろう。
 病気じゃないとは言っていたけど・・・。
 
 オレの視線を受けてノスが口を開きかけた時、「セイラン」と後ろから声をかけられた。
 アスティたち女子の集団だ。
 食事はこれからなのか、購買部で売られているパンやおにぎりを手に手に持っている。
 
 「何々、ウスイ様について話してるの?」

 なにやら嬉しそうに話し掛けてくるアスティに、ノスが口の片端を持ち上げる。

 「セイランほっとけよ、こいつらウスイのこととなると馬鹿丸出しになるんだぜ」
 「な〜によ!ノスだってウスイ様が斜め後ろの席に座ってた時金縛りに遭って授業中 当てられても一言も喋れなかったくせに!」
 「仕方ないだろ!お前もウスイの近くに座ってみろよ、今まで経験したことのない荘厳 にして麗しい圧倒的空間に引きずり込まれるんだぜ!」

 ・・・・・・どんな奴だよそれは。

 「そ・・・そんなに凄い人なの?」

 側に立っていた黒髪の女の子に聞くと、彼女は興奮した面持ちで頷いた。

 「ウスイ様は凄いのよ!あの美しい視線を浴びせられたが最後、最低3ヶ月は網膜に張 り付いて寝ても覚めてもウスイ様なんだから!」

 さらにその後を、他の女子たちが怒涛の如く引き継いだ。

 「眩しすぎて顔を直視出来ないのよ!!」
 「水泳の授業の時なんかウスイ様の水着姿を見て溺死しかけた生徒が数十人単位で出 て大騒動になったんだから!予測してた保健の先生がスタンバッていたんだけど対応 し切れなくて、プールサイドは阿鼻叫喚鼻血地獄だったのよー!」
 「私この学校に入れてホントよかったわ〜!!」
 「ウスイ様が入学なさるというだけで倍率が平年の13倍以上に膨れ上がったもんね」
 「惜しむらくはウスイ様と美しい友情を築く美形が存在しないことよねー!」
 「孤高のプリンスでいいじゃないの!ステキ〜!」
 「ダメダメ!それじゃストーリーにならないわ!孤高のプリンスが唯一心を開く友 人が必要よ!」
 「空手部のキャプテンなんかどう!?なかなかいかしてるじゃない!」
 「それよりは野球部のサードのフィッツ君!彼、たくましくてウスイ様とお似合い よー!」
 「や〜だメルってば!ウスイ様には読書が趣味ですみたいな儚げな男の子が似合う に決まってるんだからー!」
 「例えば・・・セイラン君とか!?」
 「キャ〜〜!お似合い!」
 「今度の文芸サークルの新刊はそれで決まりね!」
 「ばかすか売るわよー!」

 ・・・・・・な、なんだか話がえらいことになってる。
 ていうかどうしてそこにオレが出てくるんだ。
 オレはノスたちに視線を送ったが、女子の異様なパワーに押されたのか慣れっこ なのか、彼らは黙々と食事を片付けることに専念していた。
 その間もアスティたちの話はヒートアップし、このまま留まるところを知らない かに見えた、が。

 「お前達、ウスイ様は絶対不可侵な存在なのだぞ!」

 突如響き渡った甲高い声に、食堂中が静まり返った。
 声の主はアスティたちの後ろに立っている眼鏡をかけた男子学生。
 背後には数人の生徒を従えている。
 中肉中背の一見普通っぽい容姿をしているが、放たれる雰囲気はぴりぴりと固く 、オレはあまりいい印象を感じない。
 
 「さっき話しただろ、あれがアラン教祖だ」
 
 ノスがオレに囁いた。
 
 「アスティたち女子の一派・・・と言っても殆どの女子だけどな・・・彼女達と真っ向か ら対立しているんだぜ」
 「ふーん・・・」
 
 囁きを交わすオレとノスの前で、アラン教祖とアスティたちは凄まじいにらみ合 いを繰り広げ始めた。
 オレへの方向性は持っていないものの、目と鼻の先で展開される応酬は悪意の渦 を巻き起こし、オレの超感覚をじくじくと刺激する。
 ますます気分が悪くなったので、オレはひとまず食堂を離れることにした。
 顔面蒼白のオレに何人かが心配したのか保健室まで同行すると申し出たが、一秒 でも早く人から離れたかったのでそれらをやんわり断ると、かなりの量を残してし まって、食べる前と重さがたいして変わらない弁当箱を片手に立ち上がった。
 そんなオレついと近づく影。

 「・・・・・・君、エイリアンハーフなんだって?」

 目の前に現われた神経質そうな顔は、アラン教祖のものだった。
 ガラス球のような目でオレをじっと見つめると、にぃと笑う。

 「ウスイ様と、君は、違う、ということを忘れないようにね」


 ・・・・・・オレは吐き気と共に別の不快感を胸の中でぐるぐるさせながら、食堂を後にした。